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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない18
「まだ迷っていますか」
問いかけた声に彼は答えない。
どんな表情を浮かべているのか。朦朧とする意識ではもう、あなたの顔を見る事もできない。
「先程も伝えましたが、病院に搬送するという手立てもあります。しかし、彼は発情期だ」
搬送先で……
「性看護を受ける事になります」
資格を持った専門看護師によって、発情Ω専用器具と、看護師本人の肉体を使って施術する。
発情期は病気ではない。
薬で抑制するのが一般的だが、抑制できない一線を越えてしまった症状は、性の快感を満たす事で発情が終わる。
逆に性欲が満たされなければ、この発情期は終わらない。延々と発情状態が続くのだ。
「放っておいて良くなるわけでもない。熱や風邪のような看病は無意味です。いま一番苦しいのは明里君です。専門職とはいっても、見ず知らずの赤の他人に明里君の肌を触らせますか」
額に落ちた手がひんやりと、俺の熱を奪った。
「初めての男を、どこの馬の骨とも知れない雄にさせたいのですか」
俺は……
誰に抱かれるんだろう?
「私は嫌ですよ。あなたが反対するなら、あなたから明里君を奪います」
俺を抱くのは、いま、俺の額を撫でてくれている、この人なのだろうか?
「……少し語っていただけだ」
もう一人の声が、静かに胸に落ちた。
「誰とです?」
「優斗と」
「明里君なら目の前にいるでしょう。しかし、今の彼は到底話をできる状態じゃない。性欲でいっぱいです。もう私達を、体の一番熱い場所に子種を注ぐ雄くらいにしか見てくれていませんよ」
「それでも」
それでも?
ねぇ、なに?
俺を抱いてくれる雄の人……
「愛していると伝えたいんだ」
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