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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない19
「いい」
シャツのボタンに指を掛けたけれど、上手く外せない。
ボタンから滑り落ちた手に、あたたかな温もりが触れた。
「俺が脱がせるから」
この雄の人、優しいな。
宵闇の瞳はどこか冷めていて、少し怖かったけど、今は瞳の奥に柔らかな明かりを感じる。
「寝かせるぞ。……そう、横になって楽にしていろ。腕は適当に横に垂らして。体、痛くないか?」
気遣ってくれる。
こくりと一つ頷いた。
「話は理解できるみたいだな。俺が誰だか分かるか?」
「ちんちんくれる、雄の人」
ふと宵闇の瞳が、翳りを帯びたのはなぜ?
(俺、間違ったこと言ったかなぁ)
あぁ、そうか。
(言葉じゃなくて)
体で示さなきゃ。
あなたがほしい……って。
「ッ……」
どうしてこの雄の人、苦しそうなんだろう。
俺が股、広げたのに。
まだ、広げ方が足りないんだ。もっと、大きく。大股開きだ。
「君がそんなこと……」
「嬉しいです。ありがとう」
あ、頭を撫でてくれた。
もう一人の雄の人。羽の仮面を付けている人が、緩やかに緩やかに、俺の髪を撫でてくれる。
褒めてくれて嬉しいな。
「ここも撫でて」
「はい。分かりました」
こんもり膨らんだ慎ましやかな股間に、手が降りる。
「ここは丁寧に……」
「アゥぅン」
「気持ちいいですか」
「アゥ」
「聞くまでもなさそうですね」
「おい!」
不意に怒声が飛んできて、ビクンッと肩が跳ねた。
「いけませんよ。明里君が恐がっています」
「しかしっ」
「明里君が私達を受け入れようとしてくれてるんです。ここは喜ぶべきところです。……いっぱい君を褒めてあげないと……ね、明里君」
「はうゥ~ん」
「優しくします。ここ、少し強く握ってあげましょう」
「ヒンふっ」
「いい声出ましたね。可愛いですよ」
仮面の下ですっと目を細めた。
「これが私のやり方です。おそらく明里君は、発情期が終われば今夜の事はなにも覚えていないでしょう。だったら尚更、優しくしなければ。怖い事はなにもないと」
忘れてしまうから……
「優しくしてあげたい。初めての発情期でなにも残らないなんて、悲しいから。せめて、優しさだけでも、今夜たくさん注いであげたい」
ね、明里君……
「私のやり方に賛同しかねるのでしたら、お引き取りを。私だけで彼を慰めます」
「誰もそんな事は言ってない」
「そうですか。残念です。せっかく、明里君を独り占めできると思ったのに」
「ねぇ、仮面の雄さん。もっとぉ~」
「はいはい、こうですか」
「ハフゥ~」
「いい声……私好みですよ」
「優斗ッ」
どうして、この雄の人は俺に触れてくれないんだろう。
なんだか、とっても苦しそう。
ふわふわ
思ってたよりも、髪の毛柔らかかった。
ハッと弾かれたように視線が持ち上がる。宵闇の瞳が潤んでいる。
「雄の人、どこか痛い?」
痛いんなら、俺がもっと撫でてあげよう。
あなたの痛みがなくなりますように。
もう痛くなりませんように……
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