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ⅩⅡ思い出せないけれど、好き16

「雄の人〜」  どうしよう、俺っ  聞いただけで。 「どうしました?明里君」 「言ってみろ、優斗」  言えない。  でも……言わないと、きっと先に進んでくれない。 (雄の人は優しくて、意地悪だから)  ここで止められたら、俺。 (おかしくなってしまう) 「教えてください。明里君」 「ほしくて……じゅくじゅくする」 「どこがですか」 「お尻のあな」 「うん」  よく言えたご褒美に、二人の雄が頭を撫でてくれる。  気持ちいい。 「でもな、優斗。半分正解で、半分間違いだ」  どうして? 「『お尻の穴』は君の性器だから、それに相応しい言い方があります」 「あなじゃないの」 「『優斗』には『優斗』という名前がある」 「『Ω』っていつも呼ばれるのは嫌でしょう」 「うん……」  俺の名前、読んでほしい。  菫の雄さんと、仮面の雄さんにも。  『Ω』って呼ばれるのは寂しいな。 「優斗」 「明里君」  二人が俺の名前を呼んでくれて、ぽっと心の中があたたかくなる。 「俺達も、君の名前を呼ぶのが嬉しいよ」 「だから君も呼べますね」  えっと…… (そうだ)  俺はまだ、二人の雄さんの名前を知らない。 (二人の雄さんだって、きっと名前を読んでほしいよね) 「あの」 「どうした?」 「なんですか?」  聞いていいのかな。  二人の名前。  聞かれるの嫌だったら、どうしよう……  言いかけて躊躇する。 「私達は、君に酷いことしましたか」  仮面の奥の瞳が曇った。 「それとも、どこか痛むのか」  菫の瞳が心配そうに俺を覗き込んだ。 「ちがっ、そうじゃなくて……名前」 「名前?」 「二人の雄さんの名前、知らないから」  ふわりと見上げた眼差しが、菫の仮面の光に絡め取られた。 「二人の雄さんの名前、教えてください」  言ったよ、俺……  大丈夫?  雄さん、嫌な気持ちになってない? 「君は……」 「優しい人ですね」  優しいっていうのは、なに?  名前を呼ぶのが、優しいの? 「私の名前……」 「俺の名前は……」  そっと唇に指を当てられた。  人差し指が、二本。 「今はまだ」 「秘密です」

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