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第2話

「ごちゃごちゃウッせェンだよッ」 拳を振りあげて一発。赤い髪をしたヤツは吹っ飛んで地面に沈む。クソ弱ぇくせに口だけは上等でケンカふっかけてきたヤツ。上級生だのなんだの、だからどーしたッてイライラする。 「かなちーん。タバコ持ってねー?」 赤い落ち葉を情けなく顔に張り付けて倒れてるヤツに蹴り入れていたら渡り廊下の隅でスマホをいじっていた佑月がダラダラした足取りで近づいてきた。俺と同様に着崩した制服。ミルクティブラウンだとかなんとか、ふわふわした髪型と同じで中身も軽そうなヤツ。 高校入学したとき知り合った佑月とは性格はあってんのかはわかんねぇけど気楽で二年になったいまもずっとつるんでる。 コイツはケンカは強いがほとんどしない。単に面倒くさい、って理由で。 無言でポケット探ってクシャクシャになったタバコの箱を取り出して佑月に投げ渡す。佑月は一本だけ残っていたタバコを取り出して吸い始め、俺は肩慣らしにもならなかったケンカに大きな欠伸をした。 校舎の端、旧講堂のある一角は俺たちみたいなヤツの溜まり場になっていて教師も近寄らない。だからタバコもケンカも人目を気にしない。まぁべつに俺はどこでも暴れるから関係ねぇけど。 「ちょっといいか?」 突然俺たち以外の声がして驚いた。まったく気配もなく見知らないヤツが現れた。俺たちと同じ学ラン。黒の短髪で俺よりも身長は高くて……目つきが悪い。 「道に迷った。職員室、教えてくれ」  地面にはのされたヤツら。佑月はタバコを吸って、俺はソイツを睨んでる。でもソイツは怯む様子もなく顔色を変えることなく、いや無表情に訊いてきやがって俺たちのほうへ来る。 「職員室? 全然方向違うし」  タバコの煙を吐き出しながら佑月がバカにしたように笑う。 「迷ったんだよ。二回目だし」 「え、なに。まさか転校生?」  佑月は興味を引かれたのか物珍し気にその男を眺めだしたけど俺は興味なんてねぇ。無視して学校を出て行こうと歩き出した。ソイツの横を黙って通り過ぎようとして、腕が掴まれる。 「なぁ、お前」  力強く掴まれた腕。不快感が急激に湧き上がって、転校生を睨みあげる。 「前、会ったことないか?」 「あ?」  真っ直ぐに男が俺を見下ろしてくる。その視線がうざってぇし、気持ち悪い。 「テメェなんて知らねぇよ」  触るな、と振りほどいて脛に蹴り入れてむしゃくしゃしながらその場を離れる。すぐに佑月が肩を並べてきた。 「さっきの転校生、武道でもやってんのかなー。めっちゃガタイよかったよな」  俺よりも十センチは背が高く、俺よりもずっとがっしりとしていた身体。太ってる、とかじゃない。学ラン越しでも鍛えてるのがわかった。 「強そうなヤツだったから、かなちん、ケンカ売るかと思ったわ」 「クソつまんなそーなヤツ相手にするか。あとで暴れに行く」 「はいはーい」  毎日、昼頃ダラダラと意味なく学校に来て、無駄に時間過ごしてたまにケンカして。寝床に帰って着替えて、ケンカに出る。それの繰り返しだ。どうでもいい毎日をどうでもよく生きていた。

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