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第2話
結論から言おう。結局あの日、母は帰って来なかった。
そして買い物帰りの今の育ての親、あのでっかい門に住む執事の九条夫婦に拾われた。
執事長のアルファのお父さん隆文とオメガで優しい笑みを絶やさない番いの翡翠お父様の養子になった。
オメガの翡翠お父様は欠陥があって子供が授からない体質だった。二人は子供好きって言うのもあって俺こと朔弥は自然と養子になった。
その時は5歳だったはず。
現在二十歳になって霧城家の長男朱雀様と年齢が近い事もあって専属の執事となっている。
まず、着替えて朝食を使用人室で食べてから7時前。白い手袋をはめながら階段を上がり向かうのは主人である朱雀様の部屋。
カチャリと問答無用で部屋に入るとカーテンの閉まった暗い室内。部屋の主はスヤスヤと眠っている。
一気にカーテンを開けると「うう〜」と言ったうなり声が聞こえた。
「朱雀様起床の時間でございます」
「うー朔弥〜後5分」
「そう言ってまた遅刻ギリギリになって私がバイクで送りになったのをお忘れでしょうか?早くお目覚めになって下さい」
すっと両腕を上げて起こしてのポーズ。
毎回この坊ちゃんはそうやって何かと手間をかけさせる。
「朱雀様?」
わざと焦らす様に言ったが両腕を上下に振って起こしてアピールは止まらない。
あーもう仕方ない。言う事を聞きますよ。
「それでは失礼します」
腕をぐいっと引き寄せると朱雀様が抱きしめて私の肩に顔をくっ付ける。
「朔弥の香水っていい匂い〜」
いやいやそうじゃない早く起きろよ坊ちゃん。
「朱雀様じゃれてないで早く支度して下さい」
表情一つ変えずに淡々とお決まりの言葉を言うが今日はしつこい。ぎゅっと抱きしめたままスヤーと寝息が。
「立派なアルファの朱雀様はそう言う事は将来現れる番いのオメガの方にして下さい。同じオメガでも私は朱雀様の番いではないのですから」
そうキツく言って、朱雀様を振り解く。
「はいはい起きますよ、でも朔弥が近くに居ると安心するんだ」
朱雀様はパジャマをポンポン投げて俺がベッドの上に用意していた制服に着替え始める。
それを集めて抱えると朱雀様は着替え終わり、洗面所へ向かうのが見えた。
朱雀様は俺が近くに居ると安心すると言っていたが、それは当時俺が5歳で朱雀様が2歳。よく幼い頃は遊んでいただけの事であり、ただそれだけの関係だ。
朱雀様のトーストに彼がお気に入りのブルーベリージャムを塗っていれば髪をワックスでふんわり整えた朱雀様がやって来た。
椅子を引き彼が座ると俺は窓の近くへビシッと立つ。それを見た朱雀様が呆れた顔をした。
何か妙な振る舞いをしたかと考えていると。
「朔弥もそんなとこに立たないで前に座って」
「いえ、私は朱雀様の専属使用人であり執事ですからその様な真似はそい兼ねます」
「そんじゃ命令。朔弥は俺の前に座れ」
はぁ命令されたら逆らえないの知ってるからってなんだかな。こんな無表情な奴を前にして朝食食べても美味しいと思えない。
椅子にすとんと座れば朱雀様がご機嫌に鼻歌を歌いながら朝食を再びとり始める。いったい何が嬉しいのか。
「本日の予定をもうしあげます。14時まで学院、その後はいつもの場所で御友人との集まり。お帰りの際はご連絡下さい、お迎えにあがります」
「そだな変更とか無しでっとごちそうさまっと」
玄関にて朱雀様のネクタイがグチャグチャな事に気付いた。
「朱雀様ネクタイが」
そっとネクタイを締め直していると朱雀様がじっと俺を見ている。視線が痛い、すっごく居たたまれない。
「何かご不満な点が」
ネクタイを直し、コートに袖を通す隆文様に聞いた。
すると予想外な言葉が返ってきて戸惑うとは思わなかった。
「なんだかオヤジが母さんに毎日こう言う風にやってもらって顔がふにゃけてる理由が分かるな〜って」
意味不明だった。朱雀様のご両親ならその様な姿を見てもなんだ普通の事。でも執事である俺がそんな事しても当たり前だ。朱雀様は何故そう感じたのか理解できない。
「それじゃ行ってきます」
朱雀様の声に我に返った俺は行ってらっしゃいませとおじぎした。
「ほのぼのしてて良いよね〜」
振り向けば奥様がにまにましながらそう言った。奥様はオメガだ。薬剤開発する霧城家に嫁いだ笹井家の次男だ。霧城家の何かの立食パーティーで知り合い番いとなった方だ首すじには歯型がついている。
「奥様いつから見てらしゃったのですか?」
「ん〜っと朱雀のネクタイ結び直してるとこからかな」
ってだいたい全部見てる。妙なとこ見られたなっと何だか落ち込む。
「朔弥は分かってないかも知れないけど僕が毎日見送ってる時とかね、1日頑張ってねとか言ってるのを朱雀も知ってるし、僕の旦那が嬉しさのあまり顔がふにゃけてるのも知ってるけどようやくか〜」
ああ奥様が意味不明な事言ってる。養子になる前はオメガだからってベーターの家族から酷い扱いを受け感情が欠落した俺には分からない言葉ばかり言ってる。
「朔弥が朱雀の番いだったらな〜。オメガのヒート抑制剤の安価で開発した頭脳は素晴らしいよ。それ以外にもあるけどね」
有りもしない事を。朱雀様にはアルファか地位のあるオメガのどちらかと番いになった方が幸せだ。俺にはオメガとアルファの関係を匂わせた事など無い。
「番いだったらビビッと一発で分かるんだけどな〜僕も旦那と会った時直ぐに分かったし」
ほらそうだろ、俺と朱雀様ではその現象は一度も無い。
「奥様すみませんこの様な無意味な話に時間を取らせてしまい、申し訳ありません。それではまた失礼いたしました」
すっと頭を下げて仕事の続きに向かった。
「本当に二人共分かってないな〜」
と奥様が言ってるなんて知らなかった。
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