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第9話

早朝4:30。 けたたましいスマートフォンのアラームが響く。 「んっ、むっ、むぅ〜」 布団を頭に乗せたまま顔だけ潜り込んでいた布団から這い出しでベッドチェアに置かれたスマートフォンをべしっと叩き、しばらくじっと枕の上にあごをのせてしばし夢ごごちに身をゆだねていた。 すると遠くからバタバタと足音がこちらに近づいて来る。 「ぬぅ〜」 ほかほかした布団から出て行きたくない。だけど起きなければならない。 そんなどうでも良い葛藤が繰り広げる中で、 「朔弥ー!大変だー!」 ドアを勢いよく開けてしまった反動で父さんはフローリングにズズーとスライディングする。 布団をかぶったまま顔を向けて父さんの一部始終を眺めていた。 「早く着替えて翡翠の所に行くんだ!」 シュバっと立ち上がり宣言した父さん。 ポジティブだな〜とか考えていると布団をがばっとめくられた。急に身体が寒くなってくしゃみをした。 「相変わらず朝は弱いみたいだな。早く、急げ、ダッシュで」 あー父さんがこうなったらダメだ、のそりとゆっくりクローゼットへ向かう私に父さんは痺れを切らしてクローゼットからコートを引っ張り出して肩にかけてくれた。 「離れの屋敷まで遠いんだ朔弥急げー」 手を引かれて父さんは走る。 私は羽織ったコートが落ちない様に必死に手で押さえていた。 父さん私はスリッパなのですけど。 離れの屋敷に着いた。 ここは屋敷の皆の中から夫婦になった人や恋人になった人が住む所でアルファやオメガといった様に分けて住んでいる訳では無い。 お父様の部屋の前には人だかりができていた。 「翡翠!朔弥を連れてきたぞ!」 と大きな声で張り上げる。 「隆文さん、奥様も居るのですよ静かにしてはどうですか?」 ベッドの上に座るお父様の声のトーンが冷たい。しかも目が笑っていない。 普段から怒らない人を怒らせると怖い。 「無理矢理に朔弥を連れて来たのでしょ?寝巻きにスリッパ。コートを着せてるからまだしも大人なのですからもうちょっとは考えてくれません?朔弥が風邪を引いてしまったらシバきますね」 凄い言われ様。父さんは何を焦ったのか知らないけどお父様はご立腹。 何も分かって無い私はようやくコートに袖を通してほかほかだ。 おっと肝心な大変な事を聞かなくては。 「父さん、今さらだけど何が大変なの?」 そう言った瞬間、部屋の空気が凍った。 うんこれは間違いない。 お父様が頭を抱えた。 奥様はあちゃーといった表情を浮かべいる。 「貴方って人は!朔弥に何も知らせずに何が何だかんだ分からないまま連れて来てどうするつもりなの!」 「翡翠さーんお身体にさわるから興奮しちゃダメよ〜隆文も悪気は無いんだしさ」 奥様がお父様のお腹をさする。 ん?お腹。と言う事はこれしか無い。 「お父様妊娠したの?」 「えっちょっと、あのね朔弥。真顔でそう言われるとお父様どうしたら良いか分からない」 うーむなるほどなるほど。 「父さん頑張ったんだ」 グッと親指を立てた。 「翡翠を再起不能にさせるまで毎日頑張った」 私と同じく親指を立てた父さんの笑顔が眩しい〜 「子供の目の前で何を!」 手元にあったティッシュケースを父さんにめがけて投げつけるお父様。 ご乱心ってやつですねこれって。 「おーい二人共。さすがにここまで僕を放置するのはどうかと思う」 「あっすみません奥様。バカがバカしてまして」 「翡翠ちゃん。俺ここまでされちゃうと泣くよ。マジで」 「父さん1回本気で怒られた方が良いと思う」 「朔弥まで父さん見捨てるの?うう悲しくて死んじゃう」 「こんなデカいウサギが居てたまるものですか」 顔をぷいっとそむけるお父様。 うーん私が言って何だか可愛い。おっとそれにしてもお父様が妊娠したというのは奇跡に近い。お医者様からは子供は望めないと言われていたから良かった。 「弟か妹。でも歳が離れすぎている兄は兄と認識してくれるのか謎」 「朔弥は心配しなくても良いのですよ。お父様にとっては朔弥は大切な家族です。きっとお腹の子もそう思ってます」 「産まれたら父さんのデレ期が始まると思う、僕が小さい頃は仕事抜け出してしょっちゅうお父様が父さん引きずって行く姿を見てたから」 「あれはね面白かったよ〜翡翠と隆文のやり取り最高だったわ」 「奥様ずっと赤ん坊の朱雀様を抱きかかえながら大爆笑してましたね」 「良く見てたね朔弥、本気であれは楽しかった。隆文がめげずに脱走しまくりだった。良くやるな〜って見てた」 父さんの方を見たら「だってさー」とか言ってもじもじしてる。本気で気持ち悪い。 「奥様と同い年の子か〜朱雀様は旦那様似だから今回は奥様似だったら旦那様も俺と一緒に脱走だな。仲間が居ると心強いわな!」 えっ奥様も?朱雀様も大変だな。私と同じく歳の離れた兄弟。でも学校があるからなかなか会えないか。多分旦那様と奥様と同じで大学院まで出ると思うし。 私はお父様の故郷であるフランスで大学飛び級して20歳で卒業して屋敷の敷地内にある製薬のラボで実験して何とか賞もらったっけ。 朱雀様も大きくなったし今はお世話係もほぼ引退。朝の支度と送り迎えだけで大体今はラボで論文書いたり、発表したりと本格的に製薬会社で勤めてるって感じですかね。 「朔弥よこれは屋敷内のベビーブームが始まった。料理長にも男の子が産まれるそうだ」 「父さん詳しいね、どっからそんな情報が?」 「んなもん体の付き合いだ!屋敷の大浴場のサウナで情報交換しとるに決まってるだろ」 あー汗臭い趣味デスネ。

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