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1章【運命的で偶発的、されど必然的な出会い】 1

 ――先天性のアルファだ、と。  松葉瀬は幼い頃、両親から……そう、言われた。  当時、アルファというものがそもそも何なのか。松葉瀬は、知らなかった。  けれど、両親が酷く喜んでいる。  【松葉瀬陸真がアルファ】だと分かった途端、はしゃぎ始めたのだ。  そんな様子を見せつけられたのなら、松葉瀬は当然……こう思う。  ――【アルファ】は、凄い。  ――【アルファ】であることは、とてもいいことだ。  正しい知識を与えられる前に、松葉瀬は両親からの刷り込みによって、そう直感した。  それが徐々に歪み始めたのは、松葉瀬が中学生の頃だ。 『陸真がアルファで、本当に良かった。……私、優越感に浸れるんだもん』  それは、松葉瀬が初めて付き合った女の子から告げられた言葉。  それこそが、全ての始まり。  ――アルファは、他とは違い優秀な種族。  ――凡人とは違う、優れた生き物である証。  男女という性別の他に診断される、第二の性。  凡人であり、普遍的な生物という証のベータ。これは、一般的であった。  そのベータよりも希少で、尚且つ優れた生物の証。……それが、アルファだ。  アルファがどういうものなのか。それを正しく知ったのは、松葉瀬が思春期に入ってからだ。  有象無象から向けられる、期待と羨望の眼差し。松葉瀬自身にとっても、それは優越感に浸れるものだった。  けれど、初めて付き合った彼女から告げられた言葉を皮切りに……松葉瀬に向けられる他者の視線が、変わった気がしたのだ。 『松葉瀬は優秀だな。きっと、アルファだから特別なんだろうな? 先生も鼻が高いよ』  それは、教師の言葉。 『へぇ? キミ、アルファなんだ? だったら絶対、優良株だな! 採用、採用!』  それは確か、アルバイトの面接官。 『高卒かぁ。……ん? でも、松葉瀬君はアルファなのか。なら、いいかな! 春からよろしくね?』  これは、現在勤続中の会社での面接。  悪意とも善意ともとれない、無意識の外にある言葉。  ベータから贈られるその言葉は、あの日を境に……無数の刃となって、松葉瀬の心を切り裂いた。  ――この世界は、とても広くて。  ――ゆえに、狭い。  アルファ性だというだけで、松葉瀬は優遇された。  しかし、それは決して松葉瀬自身への評価とはイコールになっていない。  その事実に気付いた時……松葉瀬の心は、酷く苛まれた。  ――松葉瀬陸真は、アルファという第二の性を持つ男。  先天性アルファという、持って生まれた輝かしい才能。  もしも、そんな松葉瀬を魅力的な花と例えるのなら。  松葉瀬陸真にとってのベータは、自分という花に群がる害虫と……大差なかった。

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