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 蹂躙されることのなにが、得なのか。  それを矢車は、笑みを浮かべたまま説き始めた。 『ボク、悲惨すぎるシチュエーションとか、理不尽すぎる待遇を受けるとか……そういう、絶望感たぁっぷりな状況、大好きなんです。……もう、すぐにでも達しちゃいそうなくらい、ね?』  そこまで聴いて、松葉瀬は遂に理解する。  ――矢車はどうして、自分がオメガだというカミングアウトをしたとき……あんなにも、毅然としていたのか。  それは決して、オメガだということを嘆いていたわけではなかった。  矢車は確かに……【自分がオメガだ】という事実に、絶望はしていたのだろう。  ――だからこそ、その絶望を快感へと転換してしまったのだ。 『だから、ね? ボクを、虫唾が走る程大嫌いな松葉瀬センパイの番にして? ボクのこと、いっぱい、い~っぱい……絶望させてくださいよぉ?』  ――矢車菊臣は、能天気な馬鹿なんかじゃない。  ――頭のネジが外れた、とんでもない狂人なのだ。  恍惚とした笑みを浮かべ、矢車は官能的に囁く。  すると不意に、甘い香りがした。 『……あれ? センパイの、オスな部分……どんどん、硬くなってますね?』 『ッ!』  矢車から放たれる、甘い香り。  それはきっと、オメガが持つ……フェロモン。 『良かった、反応してくれて。……ね、センパイ。そろそろ本番……シませんか? ボク、さっきのキスで……結構、その気になってるんですよぉ?』  囁く矢車が、松葉瀬に自身の下半身を擦りつける。  オメガのフェロモンに充てられた松葉瀬同様……矢車の下半身も、反応を示していた。  松葉瀬は、苦虫を嚙み潰したような顔をする。  けれど、このまま黙って解散する気には……どうしても、なれない。 『テメェのことは気に食わねェが、とりあえず魂胆は理解した。だったら、乗っかってやるよ、ドヘンタイ』  矢車のスラックスに手を伸ばし、前を寛げる。  そのまま、下着もろとも引き下げた。 『ん……っ。ヤッパリ、ちょっとだけ……恥ずかしい、かも』 『男同士に、恥ずかしいもなにもねェだろ』 『銭湯とかお手洗いなら、その場にいる人全員が脱いでるけど……今は、ボクだけじゃないですかぁ』  既に濡れている、矢車の先端。  そこに指を這わせた松葉瀬は、ゆっくりと先端を刺激した。 『ん、っ。……センパイも、早く……脱いで、っ?』 『主導権はこっちだ。指図すんな、ドヘンタイ』 『あ、っ!』  ぐりっ、と、先端を圧迫する。  華奢な矢車の体が、小さく跳ねた。 『だめ、センパイ……ボク、センパイ相手だと感じやすくなっちゃうみたいで……んっ! すぐ、出ちゃいそうです……っ』 『男を煽るのが上手だな。矮小ビッチなメスオメガ、だったか? もう十分そうなんじゃねェの』 『やっ、あっ! 利己的なセンパイに、罵られるなんて……んっ、感じちゃいます……あ、っ!』  松葉瀬の手が、徐々に滑り気を帯びていく。  矢車の逸物から、快感による先走りの液が漏れているからだ。 『あ、ん、っ! だめ、あっ、イ――ん、ふあ……っ!』  矢車の体が、小刻みに震えた。  それと同時に、松葉瀬の手が白い飛沫で汚れていく。  ――相手は、満更でもない。  ――だったら、抱いてしまっても胸は痛まないだろう。  絶頂によって脱力している矢車の体を、松葉瀬がぐるりと反転させる。 『自分だけ楽しんでんじゃねェよ、後輩。年上には敬意を払うモンだろォが』  自身の前も寛げ、松葉瀬は矢車との距離を詰めた。  それがどういうことか、分からないほど……矢車は、純情ではない。  唇で弧を描き、これから自分を犯す相手を熱く見つめ……矢車は蚊の鳴くような声で『すみません』とだけ、囁いた。

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