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男の後孔でも、オメガであるならば……女のように、濡れるらしい。
どこかで聞きかじった性事情を、松葉瀬はぼんやりと思い出していた。
『ローション要らずで、慣らす必要もなし……か。すげェな、オメガってのは。性処理の道具として優秀だな』
腰を打ちつけ、松葉瀬は独り言のように呟く。
対する矢車は、備え付けの枕にしがみつき……恍惚とした表情を浮かべていた。
『あ、ん……っ! ふっ、あは……っ。慣らす必要がないのは、ん……っ! ボクが、事前に……準備、してたから――あ、っ!』
『だから褒めろとでも? 今どき、ガキの方がもっとマシな理由で褒められてるぞ……ッ』
『ぁあっ!』
温情や優しさのない、荒々しい抽挿。
まるで道具が相手かのように、松葉瀬は自分勝手な動きをしていた。
『んっ、あ、だめ……っ! 壊れ、ちゃう……や、っ!』
『テメェの耳は飾りか? グチュグチュ音が鳴ってんの、聞こえてねェのかよ』
『あっ、んん、っ! もっ、やぁ、乱暴に、しないでぇ……っ!』
中性的な容姿の矢車が、女のように喘いでいる。
背を向けられれば、多少骨格に差はあれど……女と見紛うほどの、妖艶さだった。
何度も何度も、奥を穿つ。
その度に、矢車の後孔は素直な反応を返した。
『あっ、んっ、気持ちいぃ……っ! センパイの、いぃ……っ!』
うわ言のように紡がれる言葉に、松葉瀬は耳を塞ぎたくなる。
――官能的な台詞に、思考が焼かれそうで。
――蠱惑的な体に、理性が溶けそう。
矢車を犯す松葉瀬の視界に、ふと、見てはいけないものが映る。
――それは、矢車のうなじだ。
枕に頭を押しつけている矢車は、その視線に気付けるはずがない。
なのに矢車は、狙い澄ましたかのようなタイミングで囁いた。
『――そろそろ、咬みつきたくなってきたでしょう?』
矢車はそう言い、襟足よりも長く伸びた髪を、うなじから除ける。
『ほら、ね? ガマンしなくていいですよ? 思い切り、咬んじゃいましょうよ? ねっ、ね?』
珠のような汗が浮かぶ、矢車のうなじ。
そして、松葉瀬を嘲笑うかのように漂う……甘い、香り。
――咬みつきたい。
――今すぐ自分のモノにして、今以上に犯して。
――メチャクチャに、してしまいたい。
誘われるように、松葉瀬は矢車のうなじに顔を近付ける。
『センパイ、ほら……あーん、しましょう?』
矢車も、番になることに肯定的だ。
うなじに舌を這わせ、歯でなぞる。
――そこで、松葉瀬は我に返った。
『――誰が、テメェみたいな奴を番にするかよ……ッ!』
咬むか咬まないかの、瀬戸際。
そんなギリギリのラインで、松葉瀬は踏みとどまる。
今ここで、矢車に咬みついてしまうこと。
それは決して、矢車に対する好意なんてものではない。
――ただの、アルファとしての本能。
そんなものに支配されて、目の前にいるオメガへ咬みつくなんて……そんなのは、矢車の思う壺だ。
松葉瀬は矢車のうなじを手で覆い、そのままベッドへ押し付けるように力を入れた。
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