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 うなじをつねられた矢車は、悲鳴を上げる。 「ひっ! い、痛いじゃないですかぁ! ボク、センパイから与えられる絶望は好ましく思っても、痛いのは嫌いなんですってばぁ!」  つねられたうなじを手で押さえ、矢車が目を吊り上げながら文句を言う。  そんな矢車を見下ろして、松葉瀬は鼻で笑った。 「ハッ! マゾだろォが絶望中毒だろォが、どっちみちヘンタイには違いねェだろ」 「全然違いますよ!」 「キャンキャンうるせェんだよ、小動物未満が」 「んむっ」  騒ぎ続ける矢車の口に、松葉瀬は自分の口で蓋をする。  舌で口腔を弄ぶと、矢車はすぐさま甘い声を漏らす。 「ふ……ん、む」  それと同時に、またしても甘い香りが漂った。 「……いいから、黙って犯されとけ」 「あ……っ」 「甘ったるい匂いさせやがって……ヤッパリ、テメェはドヘンタイのクソビッチじゃねェか」  ワイシャツを乱暴に脱がし、矢車の下履きにも手を伸ばす。  着々と犯される準備が進められる中、矢車はニッコリと微笑む。 「あはっ。何ですか、それ? 素直に『抱きたくてたまらないぜ』って言ってくださいよ、ヤリチンセンパイ?」 「憂さ晴らし用のサンドバッグ風情が、なにほざいてんだか」  矢車の華奢な裸体が、松葉瀬の眼前に現れる。  つねったばかりのうなじに唇を寄せ、松葉瀬は一度だけ舌を這わせた。 「ん……っ。センパイの口が、うなじに当たるの……ゾクゾクして、気持ちい……っ」 「咬まれるかもしれねェって恐怖からなら、残念だったな。金を積まれたって咬まねェよ」 「は、あ……っ。いじわるぅ……っ」  うなじから唇を離した松葉瀬を、矢車が振り返る。 「いつも……オメガのこと、尊重したがりますよね。偽善者センパイは」 「……夢見てんじゃねェよ」  目を閉じた矢車に、松葉瀬はキスをした。  矢車が仕事のできない社員なのは、オメガだからという理由ではなく、本人の素質が問題。  仕事を押しつけられたのは、矢車の……オメガのせいじゃない。  それは決して、オメガを尊重したわけじゃなかった。  ――オメガを擁護したのは、松葉瀬がアルファだから。  ――第二の性で、誰かに判断されることの苦痛を……誰よりも、知っているつもりだからだ。 「ん、はぁ……っ。センパイ、もっと……ちゅっちゅ、しましょ……っ?」  唇を離せば、矢車がおかわりを要求する。  それに応じようと思ったのは……オメガのフェロモンに充てられたアルファの性質なんかでは、ない。  ――仕事で疲れたから、そのストレスを発散したいだけ。 (『偽善者』ってのは……あながち、間違いでもねェかもな)  当然、松葉瀬はその言葉を……口にはしなかった。 2章【主体的には動かない、諧謔的なオメガ】 了

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