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 どこにでもあるような、ラーメン屋。  そこで松葉瀬と矢車は、対面で座り、ラーメンを啜っている。 「そういえば、来週。健康診断ありますよねぇ」 「あァ……? 知らねェ、忘れた」  矢車はチュルチュルと、少しずつラーメンを食べ進めていた。  対する松葉瀬は、ズルズルと豪快に食べ進めている。 「うちの会社って、ベータじゃないの……ボクとセンパイだけじゃないですかぁ? 健康診断で後天性のお仲間が増えたら、楽しそうですよねぇ?」  松葉瀬は生まれつき……すなわち、先天性のアルファだ。  そして矢車も先天性なのだと、松葉瀬は本人から、いつかのどこかで言われていた。  【先天性】があるのなら、当然【後天性】もある。  それは健康診断の際に発覚するケースもあるらしいが、そんなものは極めて稀だ。  松葉瀬は垂れてきた横髪を耳にかけ、矢車を見ずに相槌を打つ。 「俺はテメェを【仲間】だなんて気色悪い目で見たことはねェけどな」 「辛辣ぅ、感じ悪ぅい、キモォい」 「捻り潰すぞブス」  レンゲの上にラーメンをのせて、矢車は笑った。 「でも正直なところ……自分以外のアルファが身近にいたら、嬉しくなったりしませんか?」  残っていたもやしを食べた後、松葉瀬は一瞬だけ想像する。  自分以外の、アルファ。  それが、職場にいるビジョンを。 「……まぁ、そうだな。アルファがどうのこうのって話されたら、そのアルファに話題の矛先を向けられるってことだろ。嬉しいわ」 「本当にセンパイって、見下げたクズですよねぇ?」 「ラーメンに沈めんぞゴラ」  まるで女子のようにゆっくりとラーメンを食べ進める矢車を、松葉瀬はジロリと睨んだ。  そして、矢車が食べている途中のラーメンに箸を伸ばす。 「んむ? センパ――あぁっ! 酷いですセンパイ! そのチャーシュー、楽しみにとっておいたのにぃ!」 「うるせェカス後輩。弱肉強食だ」  矢車が食べ進めているラーメンの器に浮いていた、チャーシュー。  それを箸でつまみ、松葉瀬は遠慮容赦なく、自分の口に放り込んだ。  矢車はわざとらしく頬を膨らませた後、正面に座る松葉瀬をキッと睨む。 「それってぇ? アルファとオメガ的な意味ですかぁ?」  明らかな仕返しだ。  アルファだからという理由で、思想や性格を決めつけられることを……松葉瀬は最も忌む。  そして矢車は、そんな松葉瀬の特殊すぎる怒りの琴線を知っていた。 「先輩と後輩としてに決まってんだろ、馬鹿が。くたばれ、ゴミビッチ」  露骨に不機嫌そうな態度をとる松葉瀬を見て、矢車は満足そうだ。  チャーシューの恨みを晴らし終えた矢車は、残りのラーメンを啜る。  特にすることもなくなった松葉瀬は、苛立ちを隠すことなく矢車を睨む。  すると不意に……矢車の後ろ髪が、はらりと垂れ下がる。  襟足を覆うように伸びた、後ろ髪。  それは、こだわりなのか。  それとも……うなじを隠す為。  松葉瀬はコップに注がれた水を一口だけ飲み、矢車から視線を外す。 「……テメェはどうなんだよ」 「んぇ? なにがですかぁ?」  メンマを箸でつまんだ矢車が、小首を傾げる。  その動きによって、髪がサラリと踊った。 「だから、さっきの例え話」 「センパイ以外のアルファがいたら、ですか? ……それがなにか?」 「っとに、頭わりィな、昼行灯が」  コップをテーブルに置き、松葉瀬は頬杖をつく。 「首、隠すのかよ」  そう呟いた松葉瀬は、意地でも矢車を見ようとはしなかった。

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