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 書庫は、滅多なことがない限り誰も寄り付かない場所だった。 「センパイ、ちょっと……っ! 誰か、来ちゃうかも……っ」  書庫に連れ込まれた矢車は、後ろ手に鍵をかける。  扉の鍵は、外側からだとキーがないと開けられない。  しかし今、キーを持っているのは松葉瀬だ。内側から鍵をかけてしまえば、外側からは誰も開けられない。 「そう思うなら、黙ってろ……ッ」 「や、ん……っ」  段ボール箱が所狭しと棚に敷き詰められた、暗い部屋。  そこで松葉瀬は、矢車を無理矢理押し倒した。 「あ……っ! お尻、そんな……乱暴、しないでくださいよぉ……っ」  スラックスと下着を同時に下げ、松葉瀬は矢車の秘所に指を這わせる。  松葉瀬になにがあったのか、矢車は訊かない。  ただ、従順に……犯されることを、受け入れようとしていた。  ――それがまた、松葉瀬は気に食わない。  ――だから松葉瀬は、心にもないことを口走ってしまった。 「――オメガってのは便利だな。少し弄ればすぐに濡れる。……女より扱いが楽なんじゃねェの?」  矢車から『アルファのくせに』とからかわれない限り。  松葉瀬は自分から、矢車のことをオメガ扱いしなかった。  その違和感に気付いた矢車は、自分に覆いかぶさる松葉瀬を振り返る。 「……センパイ? どうしたんですか? そんなこと、いつも――」 「黙ってろって言ったのが聞こえなかったのか」 「は、あ……っ!」  少し指を挿入しただけで、矢車の秘所は濡れた。  それは、オメガの特性。  オメガはセックスをするのに、とても楽な生命体だと……松葉瀬は内心で考えて、反吐が出そうになった。 「挿れるぞ、クソオメガ」 「待って、まだ、ボク――んっ、あ、ぁあ……っ!」  十分な準備を施されていない矢車は、当然慌てる。  けれど松葉瀬は、矢車の制止を無視した。  硬く反り立った逸物を、矢車の後孔に挿入する。  ゆっくりなんて優しい動きではなく、突き穿つように、乱暴な動きで。 「や、だぁ……っ! もっと、ゆっくり、シてぇ……ん、っ!」 「グチャグチャに濡らしながら、なに言ってんだよ。……ハッ、笑えねェ」 「あっ、あ……っ! いきなり、奥、突かないでぇ……っ!」  矢車の頭を、書庫の床に押し付ける。  もう片方の手で腰を掴み、松葉瀬は八つ当たりのように腰を動かした。 「ふっ、んんっ! あっ、激しぃ……ぁあ、あっ!」 「声出していいのかよ? オメガのフェロモンってのは、ベータにも作用するんじゃねェのか?」 「そ、れは……特殊なとき、だけぇ……やっ、ソコ、気持ちい……ひ、あっ!」 「いきなり犯されて、乱暴にガツガツ突かれてンのに『気持ちいい』ってか? ……本当に、オメガってのは便利な玩具だなァ……ッ!」  これが普通の女だったり、ましてや男なら。  『痛い』と言って、泣き叫ぶだろう。  しかし矢車は、痛みを訴えない。  むしろ……快感による涙で、瞳を潤ませている始末だ。 「だめ、だめですぅ……っ! イっちゃ、イっちゃいますから……あっ、はぁ、っ! お願い、止まってっ、ひぅ……っ!」  ビクリと、矢車が体を震わせる。  書庫に白濁とした体液が飛び散ろうと、松葉瀬はどうでもよかった。 「うぜェんだよ、ザコオメガが……ッ! 黙って犯されてろ、クソビッチ種族……ッ!」  射精をしながら、矢車は自身を犯す松葉瀬に声をかける。 「――もし、かしてぇ……っ? 茨田課長、です、かぁ……っ?」  口角を、ゆるりと上げながら。

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