34 / 76

4 : 6 *

 ――『茨田課長』と、言われて。  松葉瀬は力任せに、矢車の頭を床に押し付ける。 「ッ! ……今は、ソイツの名前を出すんじゃねェッ!」 「あはっ! 図星、なんだぁ? ふふっ、んっ、はぁ……っ!」  腰を落とすと、グチュリと、生々しい音が響く。  矢車の言っていることは、正しい。  けれど今は、逆効果だ。 「アルファに劣るオメガ風情がッ! 雑な煽り方するんじゃねェよ、死ねッ!」 「ひっ、ぁあっ!」  矢車の体内に、精液を注ぎ込む。  その感覚すらも不快に思わない矢車は、二度目の絶頂を迎えた。  細身の体をビクビクと震わせながら、矢車は肩を震わせる。  その揺れは、絶頂による痙攣とは別種だ。 「――ふふっ、あはっ、あはは……っ!」  ――笑った。  頭を押さえつけられ、無理矢理犯され、挙句の果てにナカ出しされても。  矢車は、笑ったのだ。 「あっははっ! センパイったら、ほぉんと……カワイソウですねぇ?」 「……は?」 「ねぇ、センパイ?」  押さえつけられたまま、矢車は瞳だけで松葉瀬を見ようとした。 「他人の目なんて、どうでもいいじゃないですかぁ? センパイはどうしようもなく自分勝手で、傲慢で威圧的で……なのにどうして、そんなにメンタルは激よわでザッコザコなんですかぁ? ギャップ萌え狙ってるなら正直萎えますけどぉ?」 「黙れ……ッ」  ――他人の目を気にしたって、しょうがない。  そんなことくらい、松葉瀬はずっと前から……分かっていた。  何度も何度も、松葉瀬は自分に言い聞かせていたのだ。 「テメェみたいな低能ドクズオメガに言われなくたって、そんなこと……俺が一番、分かってるんだよ……ッ!」 「ひ、ぃう……っ! あっ、まだ、動いちゃ――ぅあっ、あっ!」  体を揺すり、矢車を犯す。  すぐに善がり始めた矢車を見下ろして……松葉瀬は、ある一部分が視界に入った。  ――矢車の、うなじだ。 (――いっそ、俺が脅威的なアルファじゃなくなれば……ッ?)  矢車の頭から手を放し。  松葉瀬は、矢車の襟を、無理矢理下げる。 (【番にさせられるかもしれない】って恐怖があるから、茨田は……オメガは、俺に怯えるんだろ……ッ? だったら、いっそ……ッ!)  アルファの個性を殺す為に、アルファの個性を使い切ってしまえば。  ――矢車を番にしてしまえば、もう二度と……オメガに怯えられることはない筈。 (――アルファである自分を殺す為の行為なら……これは、アルファの本能なんかじゃねェ……ッ!)  アルファの特性を殺す為に、咬みつく。  アルファである自分自身を、殺す行為。  それならば【アルファの本能】だと言われる筋合いはない。  ――これは、自己防衛だ。 「――っ! センパイ、うそっ、待って……っ!」  白くて、細く……甘い香りを漂わせる、矢車のうなじ。  そこに向かって、松葉瀬は歯を……突き立てようとした。

ともだちにシェアしよう!