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――『茨田課長』と、言われて。
松葉瀬は力任せに、矢車の頭を床に押し付ける。
「ッ! ……今は、ソイツの名前を出すんじゃねェッ!」
「あはっ! 図星、なんだぁ? ふふっ、んっ、はぁ……っ!」
腰を落とすと、グチュリと、生々しい音が響く。
矢車の言っていることは、正しい。
けれど今は、逆効果だ。
「アルファに劣るオメガ風情がッ! 雑な煽り方するんじゃねェよ、死ねッ!」
「ひっ、ぁあっ!」
矢車の体内に、精液を注ぎ込む。
その感覚すらも不快に思わない矢車は、二度目の絶頂を迎えた。
細身の体をビクビクと震わせながら、矢車は肩を震わせる。
その揺れは、絶頂による痙攣とは別種だ。
「――ふふっ、あはっ、あはは……っ!」
――笑った。
頭を押さえつけられ、無理矢理犯され、挙句の果てにナカ出しされても。
矢車は、笑ったのだ。
「あっははっ! センパイったら、ほぉんと……カワイソウですねぇ?」
「……は?」
「ねぇ、センパイ?」
押さえつけられたまま、矢車は瞳だけで松葉瀬を見ようとした。
「他人の目なんて、どうでもいいじゃないですかぁ? センパイはどうしようもなく自分勝手で、傲慢で威圧的で……なのにどうして、そんなにメンタルは激よわでザッコザコなんですかぁ? ギャップ萌え狙ってるなら正直萎えますけどぉ?」
「黙れ……ッ」
――他人の目を気にしたって、しょうがない。
そんなことくらい、松葉瀬はずっと前から……分かっていた。
何度も何度も、松葉瀬は自分に言い聞かせていたのだ。
「テメェみたいな低能ドクズオメガに言われなくたって、そんなこと……俺が一番、分かってるんだよ……ッ!」
「ひ、ぃう……っ! あっ、まだ、動いちゃ――ぅあっ、あっ!」
体を揺すり、矢車を犯す。
すぐに善がり始めた矢車を見下ろして……松葉瀬は、ある一部分が視界に入った。
――矢車の、うなじだ。
(――いっそ、俺が脅威的なアルファじゃなくなれば……ッ?)
矢車の頭から手を放し。
松葉瀬は、矢車の襟を、無理矢理下げる。
(【番にさせられるかもしれない】って恐怖があるから、茨田は……オメガは、俺に怯えるんだろ……ッ? だったら、いっそ……ッ!)
アルファの個性を殺す為に、アルファの個性を使い切ってしまえば。
――矢車を番にしてしまえば、もう二度と……オメガに怯えられることはない筈。
(――アルファである自分を殺す為の行為なら……これは、アルファの本能なんかじゃねェ……ッ!)
アルファの特性を殺す為に、咬みつく。
アルファである自分自身を、殺す行為。
それならば【アルファの本能】だと言われる筋合いはない。
――これは、自己防衛だ。
「――っ! センパイ、うそっ、待って……っ!」
白くて、細く……甘い香りを漂わせる、矢車のうなじ。
そこに向かって、松葉瀬は歯を……突き立てようとした。
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