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 二週間ほど続いたわだかまりが、会食によって解消された。  そんな、帰り道。 「せぇんぱぁい……ぼくぅ、センパイのことぉ、だいっきらいでぇす」  ――矢車は完全に、酔っ払っていた。  普段、矢車はあまり酒を飲まないらしく……松葉瀬が酒を勧めると、嬉々として何でも口に含んだ。  その様子が何だか普通の後輩のように思えた松葉瀬は、ついつい色々なお酒を飲ませてしまった。  そうして出来上がったのが……今の、酔っ払い。 「ねぇ、センパイ? ボクねぇ、なんだかぁ……酔っちゃったかもぉ」 「『かも』じゃねェんだよ。酔ってんだよ、バカが」 「んふふっ、ヤッパリですかぁ? ……ねぇ、ねぇ~? 一緒に、どこかで休憩しましょぉ? おうちまで待てなぁい。あそこのラブホに連れてってぇ?」 「耳元でワーワー騒ぐんじゃねェ、落とすぞ」  歩くことすらままならなくなった矢車を、松葉瀬は渋々背負っている。  決して、重いわけではない。むしろ、軽すぎるくらいだ。  しかし矢車は、大人しく背負われるような男ではない。 「ねぇ、センパイ? センパイってぇ、耳、弱いですかぁ? ……はむはむって、してもいいですぅ?」 「別に弱かねェし、何とも思わねェけど、純粋に気持ちわりィからやめろ」 「ふふふぅ……あーんっ」 「殺す」  パクリと、矢車は松葉瀬の耳を口に含む。  たった今説明した通り、松葉瀬は耳が弱いわけではない。強いて感想を挙げるのなら『噛まれてるな』程度。  その反応が面白くなかったのか、矢車は松葉瀬の体にギュッとしがみつく。 「センパイがぁ、学生だったときのぉ、ちょっといい話ぃ、聞いてみたぁい」 「何だよ、藪から棒に」 「ボクの知らないセンパイ物語、教えてくださいよぉ?」  酔っ払いに、会話の意味を求めるのは無粋か。  そう思った松葉瀬は、学生時代の思い出を振り返る。 「……高校二年の卒業式。『来年の卒業式まで待てない』とか言われて、制服のボタン全部、女子に盗られた」 「あははっ、なにそれぇ! 予想の斜め上すぎるモテ方しててぇ、センパイ、きも~い!」 「被害者はこっちだぞ、ブス」 「ボク、ブスじゃないですもぉん」  酔っ払いの会話に付き合うこと、十数分。  松葉瀬はようやく、自分の家に辿り着いた。  矢車を背負ったまま鍵を開け、家の中に入る。  そうして一度、矢車を通路に下ろした。  すると矢車は、両腕を伸ばして松葉瀬を見上げたではないか。 「センパイ、センパ~イ? ちゅっちゅしましょぉ? ねぇ、ぺろぺろってしてぇ?」 「ウゼェ」 「あ~んっ」 「口開けて待ってんじゃねェよ」  鍵を閉めた後、松葉瀬はキスを強請る矢車を見下ろした。  しゃがみ込み、目線を矢車と同じ高さにする。 (二度と、コイツには酒飲ませねェ……)  そう心に誓いながら。  松葉瀬は酔っ払いのオーダー通り、キスをした。

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