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6章【連鎖的に解明される、犠牲的な後輩への想い】 1

 矢車と焼き肉を食べたあの日から。  松葉瀬の目にはどうしてか……矢車が、輝いて見えた。 (アイツ……あんなに、発光してたか?)  いつも通り、矢車は他の職員と話して……笑顔を浮かべている。  その笑顔は松葉瀬に向けるものとは、少しだけ違う。 (あの笑顔は……とりあえず浮かべといてる、愛想笑い)  自分の同僚にも、後輩にも、先輩にも、上司にも。  矢車は、同じ笑みを向けていた。  ただ違うのは、松葉瀬に対する笑顔だけ。  そんな日々が数日続いた、ある日のこと。  松葉瀬はこの不可解なザワつきと、矢車が発する謎の光について……答えを見つけた。 (――遂に、顔を見るだけでイラつくようになっちまったか……)  矢車が本当は優しい男で。  善意で、自分に接してくれているんじゃないか。  茨田がオメガだと告白した、あの日。それからずっと、今までとは違うように見えていたけれど。 (見下されてるのに、何で前までと違うように見えるんだ?)  いくら矢車の言動が、根底に優しさのあるものだとしても。  矢車はいつだって、松葉瀬のことを煽り、からかい、罵ってきた。  そんな矢車に向ける目線が変わってしまった自分自身が、松葉瀬はただただ不思議でならない。 (マジで、気でも狂ったのか……俺は)  矢車の善意は、結局……裏返してしまえば【アルファ扱いされている】だけ。  もしかしたら……矢車なりの同情なのかもしれない。 (アイツ、俺のこと『大嫌い』とか言いやがるし……俺に関わると決まって『絶望的です』って言って笑うんだよな。……どう考えても俺に対する善意なんかねェな、あの絶望中毒ヤローには)  松葉瀬はいつも、そこまで考えて。 (……そのはず、なんだけどなァ)  結局、頭を抱えてしまうのだ。  一瞬だけでも、松葉瀬は矢車によって救われていたのかもしれないと思った。  しかしそれは結局、絶望的な状況を自ら招く為、矢車が勝手にしてきたこと。  矢車は自分のメリットを追求した結果、松葉瀬に関わっている筈なのだ。  そうとは分かっているのに、松葉瀬はいつも……腑に落ちなかった。  ぼんやりと考えごとをする松葉瀬の手が、止まる。  そのタイミングを見計らっていたかのように、声がかけられた。 「センパイ。……コレ、確認お願いしまぁす」 「ッ!」  ボーッとしていた松葉瀬に声をかけてきたのは、考えごとの相手。 「……アレ? もしかして今、ボーっとしてましたぁ? センパイ、最近、考えごと多くなってません?」  つまりは、矢車だった。  書類を抱えた矢車は、小首を傾げながら松葉瀬を見つめる。 「もしかして……ふふっ。好きな子のこと、とかですかぁ? あはっ! もしもそうなら、相談……乗りましょうかぁ?」  ――大嫌いなテメェのことだよ。  とは、当然言えず。松葉瀬は笑みを浮かべた。 「あぁ、ごめんね。ちょっとだけ、考えごとしてたんだけど……でも、大丈夫だよ。……この書類だね。確認しておく」 「はぁい」  ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべた矢車が、松葉瀬のそばから離れる。  こうして、矢車が自分から離れると。 (……まただ)  松葉瀬は決まって……矢車の腕を、掴みたい衝動に襲われるのだ。

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