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散々、怒鳴り散らした後。
松葉瀬はようやく、矢車の口から手を離した。
なにかを言いたげに呻いていた矢車は、驚いた様子で、目を見開いている。
「……いいん、ですか……っ?」
固定されていた腕から、松葉瀬の手が離れた。
松葉瀬は矢車から顔を逸らし、頭を押さえている。
「……なにが」
そう答える松葉瀬に、先程までの覇気はない。
「オメガと番になるなんて……センパイ、イヤなんじゃ……っ」
「ヒートの特性を使って、無理矢理でも番になろうとした奴の台詞とは思えねェな」
「だって、それは――」
「『だって』って言うな。それ、心底ウゼェ」
自分に近寄ってきた矢車の頭を、松葉瀬は乱暴に撫でた。
「勘違いすんなよ、ザコ後輩。……俺は、オメガだからテメェを咬むんじゃねェ。……テメェがオメガだから、咬むんだよ」
「センパイ……っ」
頭を撫でられながら、矢車は赤面する。
が、瞬時に。
「……や、ムードに流されて少女漫画のヒロインになりかけましたけど、ぶっちゃけよく分かんないです。なに言ってるんですか」
「このド低能が……ッ」
「えぇ……今の、ボクが悪いんですかぁ?」
頭に乗せられていた手が、そのまま動き。
矢車の目を、覆った。
「セン――」
「黙ってろ。……そして、今から言うことは秒で忘れろ」
素直に、矢車は口を閉ざす。
普段の松葉瀬なら、矢車にこんなことはしないだろう。
そしてきっと、これから先も、してあげられない。
それは、松葉瀬が高潔なアルファだからではなく。
――松葉瀬が、松葉瀬だからだ。
「――俺がたまたまアルファで、そんな俺の惚れた相手が、たまたまオメガだった。……だから、俺は互いの生態に呑まれるんじゃなくて……互いの生態を利用してやるっつってんだよ……ッ」
松葉瀬が忌み嫌い、呪いもした【第二の性】という特質。
それに呑まれるのではなく、自分の意思でこれ見よがしに利用する。
――傲慢で、自分勝手で身勝手な松葉瀬が見つけた……アルファである自分との、付き合い方。
――これが、松葉瀬陸真の出した答えだった。
松葉瀬はそれだけ言い、再度、矢車をベッドに押し倒す。
そして矢車の体に、松葉瀬は覆いかぶさった。
「うぎゃ……っ」
「可愛くねェ悲鳴だな」
「え、ちょっ、センパイ……?」
ベッドに押し倒された矢車は、何とか松葉瀬の顔を見ようとする。
しかし松葉瀬は、自分の顔をシーツに埋めていた。
「センパイって、ボクのこと……好き、なんですか?」
「夢見てんじゃねェよ。ンなこと知らねェわ」
「えっ、今――」
「さっきからブツブツうるせェんだよ。黙ってろ、ブス」
力一杯抱き締めると、矢車は苦しそうに呻く。
「お前、もうちっと俺のモンだって自覚持てや。なに俺の許可もなく他のアルファに目ェつけられてんだよクソビッチ」
「理不尽ですねぇ……」
「『はい』か『分かりました』のどっちかしか言うんじゃねェ」
強弱をつけて、松葉瀬は矢車の細い体を抱き締めた。
それが可笑しいのか、それとも松葉瀬自身が可笑しいのか。
「ふふっ。……はぁい」
矢車は笑いながら、松葉瀬の背中に腕を回した。
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