仰向けにされた矢車は、自身に覆いかぶさる松葉瀬の背へ、手を回す。 「はっ、あ……っ！　ふっ、んん……っ」 　小刻みに体を揺すられながら、矢車は松葉瀬を見つめる。 「あっ、ぅあ、っ！　セン、パイ……っ」 「何だよ」 「んっ、ふふ……っ。センパイって、ホント……顔だけは、いいです、よねぇ……っ？　……あっ、ん、っ！」 　背に回されていた手が、松葉瀬の頬を撫でた。 　すると、まるで仕返しのように……松葉瀬は奥を穿つ。 「ひっ、あぁ……っ！」 「顔『だけ』ってのは何だよ、あァ？」 「だって、その通りじゃ――あっ！　奥、グリグリしちゃ、ぁあ、っ！」 　番になったことで、体の相性までも変わってしまったのか。 　奥を穿たれた矢車が、体を大きく震わせる。 「あ、ぁあ、は……っ」 「またイッたのかよ、ド淫乱」 「や、め……っ。体、おかしぃ……っ」 　矢車は震える声でそう伝え、力無く首を横に振った。 　ビクビクと震える矢車を抱き寄せ、松葉瀬は距離を詰める。 　無論、手加減をしてあげるほど、松葉瀬は矢車に優しくない。 「すげェな、番ってのは。……さっきまでとは比にならねェ感じっぷりだ」 「あぅ、あ……っ！　だ、から……グリグリ、いやですぅ……っ」 　しかし、矢車は松葉瀬から逃げようとはしなかった。 　――むしろ。 「すげェ締めつけ……それでよく嫌だなんて言えたな、お前」 「んっ、あ……っ！　は、ぁう……っ」 　口では拒絶する【ぐりぐり】を、松葉瀬はわざと続ける。 　――体が、歓喜に震えた。 　――口からは、嬌声に似た声を漏らす。 　番になった矢車の体は、松葉瀬にとって……遠慮や配慮のできる代物ではなくなったのだ。 「オイ、クソビッチ……ッ！　ナカに出すぞ……ッ」 　行為を始めて、松葉瀬がする初めての射精。 　矢車は目を細め、数回頷く。 「ふ、ぅ……ん、っ！　だ、して……出して、ください……っ」 「あぁ、イイな。淫乱でビッチらしい顔になってるじゃねェか」 「そんなボクの顔が、好きな……くせ、に……あ、っ！」 　硬度の増した、松葉瀬の逸物。 　受け止めている矢車は、その変化に当然気付いた。 　だからこそ松葉瀬を煽ったのだが、主導権はどうしたって松葉瀬の方にある。 「……っぜェんだよ、クソ後輩……ッ」 「は、っ、あぁ、っ！　だめ、激し――あ、ぁあっ！」 　細い腰を掴み、松葉瀬は後孔を激しく犯す。 　繋がっているというのに、それでも相手を欲するように……情けないくらいの本能を、剥き出しにして。 　最奥に熱を注がれながら、矢車も何度目か分からない絶頂を迎えた。 「はぁ、は……っ」 　息を切らす矢車が、ニタリと口角を上げる。 「センパイの、まだ……硬い、ですねぇ」 「……そうだな」 　膝を抱え直し、松葉瀬は不敵な笑みを浮かべた。 「溜まってる精子全部、テメェのナカにぶち込んでやる。精々飛ばねェように気をつけろよ。……クソオメガ」 　嫌味でも、侮蔑でもない呼称。 　それは暗に、矢車を番と認めた松葉瀬だからこそ言える台詞。 　矢車は数回瞬きをした後、うっとりとした笑みを浮かべ……ただ静かに、頷いた。 8章【意思表示は、可及的速やか且つ自主的に】　了