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死が怖い。 そう感じ始めたのは、物心がついたあたりだ。 いつか自分は消えて無くなる。そう考えた時、漠然とした恐怖が俺の胸を覆った。 死んだらどこに行く 俺のこの、意思や感情はどうなる どうして俺だけが、こんな恐怖に怯えて生きていかなきゃいけないんだろう。 誰に相談しても、真剣に向き合ってくれなかった。 天国だとか、生まれ変わりだとか、所詮は空想の話ばかり。 事実を求めても、答えが出ないのは分かってる。 それでも、こんな恐怖を抱えているのは俺だけじゃないって、誰かに共感して欲しかった。 都市伝説や、オカルトに興味を持った理由は、これが原因だと思う。いつか、この恐怖を拭い去ってくれる何かが、この中にあるんじゃないか、と僅かな希望を込めて。 背中に耳を当てると、伊澄の鼓動が聞こえる。 音に合わせて上下する胸、とく、とく、と落ち着いたテンポで鳴る心臓。 臓器の中でも特に、ここだけは特別に感じる。 伊澄はこの音が止まるって考えたら、怖くない? だんだん聞き続けるのが辛くなって、耳を当てるのをやめた。 伊澄が眠りに落ちた時、僅かに鼓動が遅くなった。 このまま徐々にテンポを落としていって、本当に止まってしまったらどうしよう。そう考えたら胸にぎゅ、と鷲掴みされたような痛みが走り、息が荒くなる。 ねえ、もし俺がこんな思いを抱えながら、毎日を過ごしてるって言ったら伊澄は笑う? 荒くなった呼吸を抑えるため、静かにベッドを離れた。 ______身体が動かない。 これが金縛ってやつか。本当に動かないんだな。 なんていうか、意識と身体が解離している感じ…?自分の身体じゃないみたいだ。 ぐっ、と力を入れてみるが、びくともしない。 ほっといたら治るだろうとそのまま脱力すると、硬直が酷くなっていく感覚が指先から身体の中心へと、伝わってくる。 それに合わせるようにどくどく、と早くなる鼓動。 動けば動こうとするほど、身体が硬直して、焦る。 はやく、はやく解けろ……! 突然、ぴーー、と耳鳴りがして、嫌な感じがした。 あ、これやばい気がする…。 自分の目の前にゆらり、と黒い影が現れて、首の辺りを圧迫される。こんな状況だから、得体の知れない影に対して余計に恐怖心が膨らむ。 影を退かそうと腕に力を入れるが、上手く入らなくて、ただ焦りだけが募る。 くそ、動け。動け動け動け……! 震えるくらい力んでいるのに微動だにしない身体。 次の瞬間、急に全身の硬直が解けて、せき止められていた水が溢れるかの様に身体がびくり、と跳ねる。 よし、解けた…! 『…×××××。』 ばっ、と黒い影の方を見る。 なんだ、今の声。 たしかに聞こえた。でもこいつ、今なんて言った…。 目が合ったのか、俺の顔を確認するとそれは徐々に空気の中に消えていった__。 「うわ!びっくりしたぁー。」 目の前には、驚いた顔をした真尋。 「なんか苦しそうな顔してたから心配したよ!大丈夫?すごい汗。」 冷え切った真尋の手が俺の額に触れる。 こいつ俺と一緒に寝てなかったっけ。やけに冷たいな。 額の汗を拭ってくれる真尋の手をどけて、大きなため息をついた。 「実験は成功したかよ。」 はじめて金縛を経験したが、思っていたよりも何倍も怖かった。 できればもう二度と体験したくない。 真尋に伝わるくらい、最大級の不機嫌さで尋ねる。 「え、俺金縛かけてないよ?」 「は……?」 「伊澄が寝た後にかけようと思ってたけど、結局俺も寝ちゃって。へへ、ごめんね?」 顔の前で両手を合わせて、眉を下げる真尋。 おいおい嘘だろ。じゃあさっきはたまたま金縛になったのか…。 「……本当に、お前じゃないんだよな。」 「金縛?うん、俺から言ったのにごめん。」 「多分、さっきなった。」 「え?!」 そう言った瞬間、真尋の目がキラキラと輝く。 「嘘?!本当になったの!どう?!どんな感じだった!」 急に声のトーンが変わり、前のめりになって聞いくる。 わくわく、といった表現が似合うその姿に、できれば同じテンションで感想を言ってやりたいが、なかなかその気になれなくて。 やばかった…。と一言、絞り出した。 「どうやばい?たぎる系?」 「できれば二度と体験したくない系。」 えーまじかよー!と1人楽しそうに騒ぐ。 「1人だけ先にやっちゃうなんてずりーよ!今度はちゃんとコツ教えるから!またやろ!」 「もういい…。」 「そんなびびんなって〜。俺がついてるだろ!」 ぽん、と自身の胸を叩いて仁王立ちする姿を軽く睨むと、そんな怖い顔しないの。と抱きしめられる。 「よしよし、怖かったんだな。」 「馬鹿にしてんだろ。」 「まさか!大好きなダーリンの弱ってる珍しい姿が見れて嬉しいなんて全然思ってないよ…!」 「ああそう。」 まあ怖かったのは本当だし。 言い返す気になれなくて、俺も真尋の背中に腕を回した。

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