5 / 15
.
死が怖い。
そう感じ始めたのは、物心がついたあたりだ。
いつか自分は消えて無くなる。そう考えた時、漠然とした恐怖が俺の胸を覆った。
死んだらどこに行く
俺のこの、意思や感情はどうなる
どうして俺だけが、こんな恐怖に怯えて生きていかなきゃいけないんだろう。
誰に相談しても、真剣に向き合ってくれなかった。
天国だとか、生まれ変わりだとか、所詮は空想の話ばかり。
事実を求めても、答えが出ないのは分かってる。
それでも、こんな恐怖を抱えているのは俺だけじゃないって、誰かに共感して欲しかった。
都市伝説や、オカルトに興味を持った理由は、これが原因だと思う。いつか、この恐怖を拭い去ってくれる何かが、この中にあるんじゃないか、と僅かな希望を込めて。
背中に耳を当てると、伊澄の鼓動が聞こえる。
音に合わせて上下する胸、とく、とく、と落ち着いたテンポで鳴る心臓。
臓器の中でも特に、ここだけは特別に感じる。
伊澄はこの音が止まるって考えたら、怖くない?
だんだん聞き続けるのが辛くなって、耳を当てるのをやめた。
伊澄が眠りに落ちた時、僅かに鼓動が遅くなった。
このまま徐々にテンポを落としていって、本当に止まってしまったらどうしよう。そう考えたら胸にぎゅ、と鷲掴みされたような痛みが走り、息が荒くなる。
ねえ、もし俺がこんな思いを抱えながら、毎日を過ごしてるって言ったら伊澄は笑う?
荒くなった呼吸を抑えるため、静かにベッドを離れた。
______身体が動かない。
これが金縛ってやつか。本当に動かないんだな。
なんていうか、意識と身体が解離している感じ…?自分の身体じゃないみたいだ。
ぐっ、と力を入れてみるが、びくともしない。
ほっといたら治るだろうとそのまま脱力すると、硬直が酷くなっていく感覚が指先から身体の中心へと、伝わってくる。
それに合わせるようにどくどく、と早くなる鼓動。
動けば動こうとするほど、身体が硬直して、焦る。
はやく、はやく解けろ……!
突然、ぴーー、と耳鳴りがして、嫌な感じがした。
あ、これやばい気がする…。
自分の目の前にゆらり、と黒い影が現れて、首の辺りを圧迫される。こんな状況だから、得体の知れない影に対して余計に恐怖心が膨らむ。
影を退かそうと腕に力を入れるが、上手く入らなくて、ただ焦りだけが募る。
くそ、動け。動け動け動け……!
震えるくらい力んでいるのに微動だにしない身体。
次の瞬間、急に全身の硬直が解けて、せき止められていた水が溢れるかの様に身体がびくり、と跳ねる。
よし、解けた…!
『…×××××。』
ばっ、と黒い影の方を見る。
なんだ、今の声。
たしかに聞こえた。でもこいつ、今なんて言った…。
目が合ったのか、俺の顔を確認するとそれは徐々に空気の中に消えていった__。
「うわ!びっくりしたぁー。」
目の前には、驚いた顔をした真尋。
「なんか苦しそうな顔してたから心配したよ!大丈夫?すごい汗。」
冷え切った真尋の手が俺の額に触れる。
こいつ俺と一緒に寝てなかったっけ。やけに冷たいな。
額の汗を拭ってくれる真尋の手をどけて、大きなため息をついた。
「実験は成功したかよ。」
はじめて金縛を経験したが、思っていたよりも何倍も怖かった。
できればもう二度と体験したくない。
真尋に伝わるくらい、最大級の不機嫌さで尋ねる。
「え、俺金縛かけてないよ?」
「は……?」
「伊澄が寝た後にかけようと思ってたけど、結局俺も寝ちゃって。へへ、ごめんね?」
顔の前で両手を合わせて、眉を下げる真尋。
おいおい嘘だろ。じゃあさっきはたまたま金縛になったのか…。
「……本当に、お前じゃないんだよな。」
「金縛?うん、俺から言ったのにごめん。」
「多分、さっきなった。」
「え?!」
そう言った瞬間、真尋の目がキラキラと輝く。
「嘘?!本当になったの!どう?!どんな感じだった!」
急に声のトーンが変わり、前のめりになって聞いくる。
わくわく、といった表現が似合うその姿に、できれば同じテンションで感想を言ってやりたいが、なかなかその気になれなくて。
やばかった…。と一言、絞り出した。
「どうやばい?たぎる系?」
「できれば二度と体験したくない系。」
えーまじかよー!と1人楽しそうに騒ぐ。
「1人だけ先にやっちゃうなんてずりーよ!今度はちゃんとコツ教えるから!またやろ!」
「もういい…。」
「そんなびびんなって〜。俺がついてるだろ!」
ぽん、と自身の胸を叩いて仁王立ちする姿を軽く睨むと、そんな怖い顔しないの。と抱きしめられる。
「よしよし、怖かったんだな。」
「馬鹿にしてんだろ。」
「まさか!大好きなダーリンの弱ってる珍しい姿が見れて嬉しいなんて全然思ってないよ…!」
「ああそう。」
まあ怖かったのは本当だし。
言い返す気になれなくて、俺も真尋の背中に腕を回した。
ともだちにシェアしよう!