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◎温もりの運び屋
ゆきやこんこん。あられやこんこん。
音楽を鳴らしながら自転車と同じくらいの早さで走行するトラック。
代わり映えのしない景色に、走りがいのないドライブだなあ。と考えながらハンドルを握っていると、ポリタンクを持って門の前に立っているおじいさんが手を振っていた。
「まいどあり。灯油入れる時、気をつけてくださいね。」
「いつもありがとうね。淑乃(よしの)君は働き者だねえ。」
「ははは、暇なだけですよ。」
俺は今、絶賛バイト中だ。
「淑乃くーん!今日もありがとね。はいこれ、田中さん家でとれたみかん。」
「え、いいんですか?」
「いいのいいの!好きなだけ持ってきな!ほんと、淑乃君がバイトしてくれるおかげで大助かりなんだから!」
どさ、と音を立てて渡されたダンボールを覗き込むと、箱いっぱいにみかんが詰められていた。
こりゃ持って帰るのが大変そうだな…。
「じゃあ明日もよろしくね。寒いから気をつけて帰るんだよ。」
「はい。お疲れ様でした。」
俺は大橋さんにお辞儀をして、ダンボールを持ち上げた。
これはなかなか重たいな…。
油断していた膝がかくっ、と曲がってしまい体制が崩れてしまった。みかんがダンボールの外へ飛び出しそうになったが、「危ない!」と駆け寄ってきた大橋さんが支えてくれたおかげで溢れることはなかった。
「大丈夫?台車貸そうか?」
「すみません…、大丈夫です。失礼します。」
「気をつけてねー。」と背後から聞こえる声に、軽く会釈をしてトラックが並ぶ車庫を後にした。
雪の上を歩くと、さくさくと軽い音を鳴らす。
俺は大学の冬休みを利用して地元に帰省した。
とは言っても中途半端な田舎は特にする事がなく、暇を持て余していたところを、母さんの紹介で大橋さんのところでトラックの灯油販売のアルバイトをすることになったのだ。
はじめは全然乗り気じゃなかったが、普段している居酒屋のバイトに比べたら全然楽だった。
暖かい車内で町内を巡回するだけ。
これでお給料も出るなら万々歳だ。
給料は何に使おうかな。なんて、うきうき考え事をしていると、氷の部分を踏んでしまった。
「うわっ!」
勢いよく後ろに倒れ込み、尻もちをついてしまった。
うっかりダンボールから手を離してしまい、みかんが雪の中に転がっていく。
あちゃー、やっちゃったなあ。
ぶつけた痛みと、雪が染み込むジャージをさすって立ち上がる。
これ、そのままにしておいたら冷凍みかんになるんじゃね。なんて呑気なことを考えながらみかんを拾っていると、「大丈夫ですか。」と声が降ってきた。
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