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③
「かんぱ~~いッ!!」
部長の長い長い一言と、やっと言ってくれた開始の合図で始まった飲み会は案の定と言うか
いつも通りと言うべきか
今、どんちゃん騒ぎ真っ只中
明日、明後日と休みな訳で二日酔いドンと来いと意気込んでいる猛者達が羽目をはずしまくっている始末
だからとは言わないが
「あ″ぁ~、ちょっオイ!汚くすんなよ。だから、そこっ言ってるそばからこぼすなって!」
「お母さ~ん、唐揚げ食べたーい」
「はいはい、唐揚げねっ!って、誰がお母さんだっ!あ、部長飲み物無いですけど、何にします?」
「佐和ぁ~」
「んだよ武藤?お前も飲み物か?」
「いんや、鍋ってさぁ~……汁無ぇけどシメのご飯入れてもイイ?」
「店員さーーーんッ!」
空いた皿やらグラスやら片付けてテーブル拭く俺を、周りの奴らは『お母さん』呼ばわり
これもいつもの事で
散々飲んだくれた同僚の面倒を一気に引き受けるのも、ほぼ俺の役目みたいなもん
(だけど、これは無いだろ……)
時間も時間でお開きになった飲み会
二次会へとなだれ込み、カラオケから出れば終電はモチロン無くって、帰り方向が同じの仲間とタクシーに乗り込んだのもいつも通り
なのに
「課長?……荒木課長?大丈夫ですか?」
「ん~~」
「あ、いやッ!『ん~』じゃなくって、家の住所言えますか?」
「家…?」
「そうですッ!」
(くそっ、面倒な事になった)
早くベッドに横になりたいのに
それすらも許してくれない
その原因を見て疲れが一気に噴き出してくる
タクシーの後部座席でバッグを抱えてオチようとしている酔っ払い
鬼課長を見てしまえば仕方ないだろう
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