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②
異動
その二文字が頭に浮かぶ
もし…そうなると、佐和がここで働く事が出来るのも後1ヶ月
1ヶ月…
(急過ぎだろッ)
引継ぎとかどうすんだ?
受け持っている担当先にだって、あいつ挨拶しに行かないとなんねぇだろッ
それに住む場所は?
ここから遠けりゃ引っ越しもしなきゃなんねぇし、いやその前に必要書類も今の内に用意しねぇと……
時間がいくらあっても足りねぇんじゃないか?
にしても…
(今までみたいには、もう……)
あいつの今後を考えれば部長の言っていた通り、色んな所で仕事をする、それが1番速いスキルアップだと思う…
でも、分かっちゃいるが
後1ヶ月そう思うと…
「荒木課長ッ!お疲れ様です」
「ッ、さ、佐和!おおっ、…お疲れさん」
なんでか心臓が痛くて堪らない
「課長、明日の商談資料なんですけど、最終チェックしていただいても大丈夫ですか?」
「あぁ、分かった。これから打ち合わせだから、その後でいいか?」
「はい、ありがとうございますッ。俺、準備してきます」
もし異動になればこのやり取りも出来なくなる
仕事で頼られる事も、毎日顔を合わせる事も…
そう思えば思うほど、今の時間がとても貴重なものに感じ…
「さ、佐和ッ」
「え?は、はいっ」
移動しようとしていた佐和を呼び止めていた
「あ、あのよ……今日、用事あるか?もし、無ければ、ウチ来ねぇか?」
まさか呼び止められるとは思ってなかったのか、ましてや誘われると思ってなかったのか
驚いていた顔がみるみるうちに、破顔一笑とも言える表情に変わっていく
「え?えぇえ、よ、よよよ、用事無いですッ、行きます行かせてくださいっ」
「くくっ、必死かよ。いや、ほらあれだッ
この間テレビでやっていたお前が食いたい言ってたチーズのお取り寄せがあったろ。
それが届いたからよ」
「覚えていて…か、課長、俺嬉しいです……
あっ、じゃあ俺、作ってみたかったのがあるんです。大根たっぷりおろしたみぞれ鍋とか…今日どうですか?」
鍋……大根たっぷりの…
ガッチリ掴まれた胃袋
想像しただけでゴクリと喉が鳴る
「佐和、今日残業無いな?」
「あ、ハイッ!!」
それからは終業時刻に早くなれ、と時計を何度も見ては仕事をこなしてを繰り返す時間が過ぎていった
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