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③
グツグツと程良い火加減が具材を踊らせて、見てれば見てる程、食欲をそそられる
白い大根おろしの隙間から覗く
表面にこんがりと焼き色が付いた餅がまた美味そうで…
「っ、うめぇ!!」
見た目だけじゃなく本当に美味過ぎる
サッパリとしたおろしが腹にいくらでも入る入る
1人で鍋なんか侘しい事この上ないのもあって中々やらずにいるが…
「荒木課長、お酒どうぞっ」
こうやって美味い飯食って、最高の酒を誰かと一緒に楽しめるのが1番の贅沢だと改めて思った
「そうだ、課長。味付け…どうですか?」
「ぁ?ああ、俺の好きな味だ。にしても、佐和…やっぱすげぇな。
こんな美味ェもの作れるなんて、お前すぐにでも嫁に行けるわ」
「……え?か、かかか、課長ッそ、それってッ!」
「ばっ!違ェよ、勘違いすんなッ!ニヤけてねぇで酒注げッ」
「はいっ!」
俺の顔を笑顔で見てくる佐和に腹も立つが、このたわいのないやり取りと
喉に広がるまろやかな喉越しに怒る気力も失せる
(何だかんだで、餌付けされてるな俺は)
そうとしか思えない
追加で出されたツマミを素直に口に運び、お酌されるたび
どんどんと気分が良くなっていく
が……
「あ、そうだ荒木課長。今度は『有明月』が手に入りそうなんです!聞けばこれも人気な銘酒とかで…
あの~、それで……また一緒にご飯食べても…」
「ッ、ああ……そう、だな」
「じゃ、じゃ、じゃッ今度は俺、筍の炊き込みご飯やメンマとか作りますね!」
『今度』や『また』と言われるたび
「ッ、ッ…」
心臓がキューーッと握り潰される感覚が襲いかかる
酒はたらふく呑んでるはず
なのに、頭は冴える一方でモヤモヤと気持ちが晴れない
(くそっ、何でだ…)
そんなこんなでついつい酒を呑み続けた結果……
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