60 / 93
⑥
「森課長すみません、退いてください」
同期?
知り合ったのが俺より早い?
(そんな過去なんか、知らないっつーの)
ゆっくり荒木課長に近づき
耳元で優しく囁く
「課長、帰りましょう」
「ん〜、さ…佐和ぁ…」
「お、おい荒木ッ」
俺の声に反応して顔を上げた荒木課長が、トロンとした目を向け、甘えるように首に腕を回してくる
首に顔を埋めスリスリと擦り寄る感じは猫のようで、前回と同じく縋り付いてくれた嬉しさに
俺も思わずしがみついた
「森課長、今は俺の方が荒木課長と仲が良いんでッ。では、失礼します!」
牽制とも先制とも言える、自分としては攻撃的な言葉
そんな普段言わない言葉を
目を見開き驚く森課長に言っていた
(だれが渡すもんかッ)
ズッシリと重みがある体格の良い荒木課長を抱え、立ち上がる
俺の方こそ上司と部下を逸脱している行動
それでもいい
バレたって構わない
荒木課長に対する想いを自覚した時から、揺らぎようがないから。
それに森課長の目を見た瞬間に理解していた
この人も俺と同じだって事も。
だから、内心焦りもする
そんな俺に荒木課長を連れて出ようとした個室の奥から…
「面白いね。あ、そうそう佐和…
出張、頑張って下さいね」
背を向けていたから森課長の表情は見えなかったが、後ろから投げ掛けられた言葉に
俺は苦虫を噛み潰したような表情が自然と出てしまう
1週間
これほどまでに仕事をボイコットしたいのは初めてだった
■■■■■■■■■■■■
佐和くんにとっては気が気じゃない人物が登場です。さてさて佐和くんの出張中、どうなる事やら。
ともだちにシェアしよう!