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「へぇ……料理ねぇ〜。なぁ荒木、番犬がいないと寂しいか」 「は?番犬?」 「佐和の事だよ」 「ブはッ、ぐ、ングッ、…はぁああ?何言って、ちょっ、なんで佐和が番犬なんだっつーの」 「自覚無いのか?」 ここが個室で良かった 盛大に酒を噴き出しているこの惨状、危なく周りに迷惑を掛ける所だった 「お前、自分の事になると本当に疎いな。 離婚の時も……突然離婚したって言うから、さぞボロボロになってると思いきや、会ってみたら元気そうだし。 なんなら前よりも血色良くなってるし。 落ち込んでいる荒木を慰めようと思ってたのに、とんだ肩透かしだよ」 「はッ、笑い者にしようとしてるのが目に浮かぶわ」 会社に入って1年足らずで結婚したのもあって、当時、周りの奴らはかなり驚いていたのを覚えている 同期の中で1番早かったのと、あとは事後報告だったのが相当悪かったらしく その中には森もいて、なんで言わなかったと怒られた記憶があった それもあって去年、離婚した時は森には伝えたが… (相当参っていたから、なんてコイツに話したか覚えてねぇな…) 妻とはお互い仕事をしてたのもあって、すれ違いの日々 さらには忙しさから子供の面倒を一切見なかったのが祟って、子供が高校進学を機に、一方的に離婚を切り出され 落ちるとこまで落ちた そして酒に逃げて、記憶を無くす程飲んでしまう変な癖が付いてしまった時にアイツが…… 佐和が… 「それも佐和のお陰か?」 何言ってんだ? と、すぐさま言葉に出来ないのは、そう俺も思っている部分があるせい 佐和のお陰で、笑えるぐらい精神的に回復したのも自分で分かる 「聞いたぞ?異動を取り消ししたって言うのも。だから今回、佐和は出張になったんだろ?」 「……ちっ」 だから尚更、私情を仕事に持ち込む事はしたく無かったが、ついあれは魔がさした (それを森に見抜かれるとか、最悪だ…) 森の人を掌握するスペック 人事について知っている奴は限られる しかも、おいそれと口外なんかしない なのにそれを異動して1ヶ月と経っていない奴が情報を握っているとは。 自分に向けられるとこんなに怖い事はない 「荒木…」 嫌な予感は続き… 「佐和とお前は、ただの部下と上司の関係か?それとも……恋人なのか?」 胡散臭い笑みを消した真剣な目が、俺を射抜く

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