65 / 93
⑤
「……そ、うだな。佐和の為に…」
と、突然鳴った電子音に体が跳ねた
表示された名前『佐和』を見て、さらに心臓が速くなる
毎日、仕事の報告と今日あった事をマメに電話して来ているから、その電話だと分かった
森にも誰からの電話かが分かったのか、無言で頷く
(言うなら早いほうがいいか… )
森に背を向け、深呼吸をしてから電話を取り
普段通りの声で…
「佐和、お疲れさん」
『荒木課長、お疲れ様です!今日の仕事、終わりましたッ』
「ああ、ご苦労さん。で、今日はどうだった?」
『はいっ、お昼に食べた豚骨ラーメンがすっごく美味しくて、並んだかいがありました!
あと明日、最終日なので予定通り帰りますね。それと今日、美味しい地酒を教えてもらったんですよ。
飲み比べ用もあるようなんで、絶対に荒木課長気にいると思います、買って帰るので楽しみに待っていて下さいね、それとそれとー…』
仕事の事を聞いたのに、いの一番に言う事はラーメンかよッと思わず頭に浮かぶ
どこか抜けている部分に、変わらない元気な声を聞いた途端
「くく…くっ、」
ホッとした
力が抜けた
『え?か、課長?』
「くッ、ははっ、お前は。ああ…分かった分かった、楽しみにしとくわ」
自然と笑みが溢れて、さっきまで色々と考えていた事がどうでも良くなる
『ッ、かかか、か、課長ッ?あ、あーっと、それで課長…明日、お酒渡しにご自宅に行っても…あっ、でも遅くなるので迷惑じゃなければ、なんですけど…ダメですか?』
「ふっ、遠慮するな。そんな事考えなくていいから、家に来ー…ッ、」
急に
後ろから抱きつかれた感覚と、体に加わった重みに…
「な!?」
思わず声が出た
ともだちにシェアしよう!