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③
「は?森?」
俺がとやかく言える立場でないのは分かっている
課長の優しさに漬け込んでいるのは俺も同じだから。
でも電話越しから聞こえた課長の声は、冗談でもなく、ふざけていた訳でも無い、心底焦っているようなそんな声だった
その声を聞いて俺はただ慌てる事しか出来なくて…
しばらくの沈黙の後
課長も聞かれる事を想定していたのか、静かに呼吸し
「ある訳、……いや、森と飲みに行って…そこで、あーー、その、キス…された…」
気まずそうに呟く
「ーーッ、…そ…そう、だったんですね…」
「されたが…あいつも俺をからかって…っ…っ、酒も入ってたしな…そうとしか思えねぇ」
何かあったとは思っていた
あの時の電話は課長の『大丈夫だから』そんな言葉の後すぐ切れてしまって、何度掛けなおそうかと思った事か。
唯一出来たのは
『明日帰ります
いつでもいいので電話下さい』
とメールを送り
携帯を握りしめる事だけ
まさかキスされていたなんて…
(も、森の奴、俺の課長にぃいいッ)
その場にいたら怒りに任せて森課長を殴っていただろう
いや、今も沸々と怒りが湧いて出てくる
チラッと課長を見たら、バツが悪そうに何か言いたそうにしては口をつぐみ、その度にビールを飲んでいる
『された』と課長が言ってるからには、森課長が不意を突いて無理矢理して来たのは想像出来る
もし荒木課長が『俺からした』と言っていたら、それこそ立ち直れないぐらいショックだった…
(課長から…)
今まで俺から何度もキスをして来た
酔った課長からも。
だけど、素面の課長からは一度もなくて…
「あの、課長…課長にお願いがあるんですが…」
「あ?なんだ?」
「俺、課長からご褒美が欲しいですッ。出張、頑張ったご褒美として…キスして欲しいです」
「ブッぐ、がはっ、は?はぁああ!?」
「ダメ…ですか?」
「さ、佐和何言ってやがるッ」
いつもの課長ならすぐに暴言とも怒号とも言えるような言葉を口にするはず
それをしないのは、俺と口約束したのに関わらず飲みに行ってしまった事に、少なからず後ろめたさがあるからだろう
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