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第12話 - ①
鬼の目にも涙
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「佐和、何で俺なんだ?」
「えーと…と、言いますのは…」
話があると言われ、課長がシャワーを済ませるまで、ずっとソワソワして落ち着かなかった
仕事の話ではないだろう
それだったらあんな風に、『話しがある』と改めて言わない
グルグルと色々な想像を巡らせ、そして…
「お前の恋愛対象は男なのか?」
「いえ…」
「だったら、なんで俺なんだ?」
床に胡座をかき俺をジッと見る課長の髪は風呂上がりでまだ濡れていて雫が落ちる
俺の予想は当たっていて
課長が言わんとしている事は何となく分かった
「佐和…俺は、その…嫁にも逃げられて、すぐ怒鳴るは口も荒い上に歳も40近い。家事全般はからっきしで、出来る事といえば仕事だけだ。
自分で言うのもあれだが…好かれる要素なんて一つも無い…」
ポツリポツリと本心を話し始めてくれる
好きな食べ物や読んだ本、観たい映画そんな話しの日常会話はよくしていた
ただ今まで課長が自分の事やプライベートの話をする事はほとんど無く、俺もあえて聞く事は無かった
だから…
「反対にお前は、仕事はきちんと真面目にやるし根が素直だから、教え甲斐もある。
それに性格も人当たりもいいのは、周りの連中だれもが思っているだろうし」
俺の事をそんな風に思ってくれてたなんて、初めて知って、内心驚く
「そんなお前が困っている奴をほっとけない性格だって事も分かっていた。分かっていたのに俺はその優しさに甘えちまって……佐和には悪いと思っている。
俺がお前を引き止めていたから、こんな風にズルズルと…悪かったな」
「え?」
「お前はまだ若いから、そのよ…男と関係を持ったのは、笑い話にして今からでも女と付き合って、家族をー…」
「ッ、ちょっ、ちょっと待って下さいッ」
思考が追いつかない
頭の中を整理しようとしても、ガツンと殴られたように一瞬で真っ白になる
課長が俺の事をどう見てくれていたのか話してくれて
でも急に謝られていて
その後、言われた事が飲み込めない
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