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②
「陣さん、これ飲みやすいですね」
「だなっ。佐和、この日本酒とチーズの燻製めちゃくちゃ合うぞ」
「本当ですね、まろやかになってお酒が進みますね」
さすが佐和と言うべきか
日本酒もつまみも俺の好みドンピシャで、飲む手が止まらない
また休日でないと出来ない背徳感満載の昼飲み
さらに、いつも食事や周りに気を遣って飲むのを二の次にしている佐和も
楽しそうに俺と同じペースで飲んでくれているのもあって、良い気分になってくる
そして
美味い美味いと飲んで、2時間ほど経った頃
異変を感じたのはその時だった
「陣さん…俺、ずっと思ってたことがあって…」
「ああ?なんだ?」
「陣さんにも…下の名前で呼んで欲しいです。
名前で呼んでくれないのは、俺の頑張りが足りないからですか?もっと気持ち良くさせる事が出来たら呼んでくれますか?俺、頑張りますから…。すぐには陣さんの希望通りには出来ないかもしれませんが、回数こなせば…」
佐和が突然、訳が分からない事を言い出して来た
「は?佐和、お前酔ったのか?」
いつもと同じようにニコニコとしていて、返事も普通だったから気が付かなかったが…
「やっぱりッ、やっぱり名前で呼んでくれないんですね…
まだ陣さんに俺がどれぐらい好きか伝わってない、そうなんですね…」
俺の問いかけに、てんで違う事を言う始末
よく見ると目の奥の焦点が合ってないし、フラフラと体が揺れている
(これ以上無理だな…)
頃合いも良かったし、お開きにしようと佐和のグラスを掴む
「佐和、お前もう飲むの止めろ。タクシー呼んでやるから、少し休んでから帰れ。明日から仕事だし、家に帰ってー…」
「分かりました!俺の気持ち、陣さんに伝わるまで頑張ります」
パッと顔を上げた佐和と視線が合わさる
そして満面の笑みをした佐和が
「は?ちょっ、っ痛ぇなって、佐和退けろッ」
両肩を掴んだと思いきや、全体重をかけ
床に押し倒してきた
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