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第4話

「ジンは志望校とか決まった?」  屈託のない……という言葉がこれほど似合う人間は珍しいのではないだろうか。 放課後、珍しく図書委員として仕事をしていた陣内に、その日も柚木はいつものように笑顔で話しかけてきた。 「まぁな。お前は?」  陣内は返却された本を戻しながら、曖昧に言葉を濁す。  元来、陣内はあまり勉強が得意という訳ではないし、勉強をするのは好きかと聞かれると、返答に困る。家もとりわけて、貧乏という訳ではなかったが、学力、学費とともに大学へ行けても、そんなに選択肢がないというのが現実だった。 ちなみに、図書委員という柄でもないにも関わらず、図書委員なのは何のことはない。体育の時間に陣内が少し怪我をしてしまい、怪我の治療が終わって、教室に帰ってきたら、図書委員にさせられていたというだけの話だ。  それに対して、柚木は陣内より図書館が似合って、頭の良い男。しかも、頭が良いだけではなく、育ちも申し分ない男だった。 「柚木?」  なかなか喋り出さない柚木。  陣内が本を返す手を止めて、彼の顔を見ると、彼は何かを考えているようだった。今でも、あの時の柚木の顔が暗く翳っていっていたのが思い出すが、それほど、柚木が笑顔の絶えない男だったからだろう。  印象的だった。 「ああ、ごめん。少し真顔になってた。まぁ、流石に東大京大とかは考えてないよ」 「東大京大って……突っ込みにくいわ。柚木ならほんとに行ってそうだし」 「ははは、でも、ほんとにそういう大学よりは家から通えるし、明慈か、生和かな。一人暮らしもできたら、したいけど、お金はできれば、就職の時に借りたいし」  少しだけ茶化して、柚木は元の柚木のように笑う。 陣内は明るい笑顔だとは思うが、どこか無理をしている気がしていた。 「違っていたら、アレだけど、もっと楽に生きて良いんじゃないか?」 「え?」 「お前は俺より頭、良いから色々あると思うけど。お前がしたいようにするって言うか……そういう方が良い気がする」 陣内は柚木とは違い、あまり弁が立つ方ではない。たどたどしい言い回しではあるが、それが返って、柚木には響いたように見えた。 「僕のしたいように……か……」 柚木は呟くように口にするのも、陣内は気にすることなく、最後の本を棚へ返し終える。鞄を持って、図書館から出ていく陣内に落陽が当たる。 「帰らないのか? 柚木」 高校生の柚木は陣内をただただ見ていた。

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