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第7話
「お世話になりました」
そんな言葉と共に、陣内は2週間ほど入院していた病院を後にした。
だが、空には雨雲が広がり、風はないが、雨がいつ降り出してもおかしくない。
そして、陣内の隣には、柚木ではなく、逢坂がいた。
「明日、退院できるみたいなんだけど……」
萎れ始めた花を処分してきたのだろう。
病室から出ていく時に柚木が持っていた花瓶から花は消えていた。柚木は「それは良かった」とだけ言い、いつものように帰って行く。
明日、柚木は大学卒業に関わる大事な講義があるらしいが、明後日には会える筈。明後日だけじゃなくて、この先もずっと……柚木が東京へ行かない限りは。
なのに、頭のどこかで永遠に会えないような気もしていた。
「やっぱり、柚木君の方が良かったかな?」
「あ、いえ……」
車の助手席へのドアは開いているにも関わらず、なかなか乗ろうとしなかった陣内は逢坂に言われて、車内に入る。
車がゆっくり走り出し、坂を下っていく。その坂へ並ぶように伸びる海岸線。晴れていれば、開放的な気分になるこのシチュエーションだが、陣内と逢坂の間には今の天気と同じく、重たく、深刻な雰囲気が漂っていた。
「今日くらい晴れていれば良かったのだけど」
逢坂は真っ白のハンドルを軽く右に傾ける。
その穏やかな声の先にどんな感情があるのだろう。陣内は何も言えないでいると、逢坂はさらに続けた。
「実は、柚木君とは病院で会っていたんだ。差し入れは柚木君に預けてね。それで、柚木君に今日、君を家に送り届ける役目を変わってもらったんだ」
「俺を家に送り届ける役目……?」
陣内はそれだけ言うと、目を背けるように視線を自分の足元へ移した。ほぼ全快している右足のひび。
痛くはない筈なのに、痛みやジワリと熱くなっていくような感じに襲われる。
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