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第8話
正直なところを言うと、陣内は大人しい感じの女の子が好きだった。
今までも、つき合ってきたのは女の子。
それが自分を振り回すけど、どこか気になるような逢坂のような男や空気のように心地の良い柚木のような男だった事ではない。
しかし、誰とつき合って、誰とずっと一緒にいたいのか。誰か一人しか好きになってしまってはいけないのだとしたら……自分は誰を選ぶだろう。
「どうして、俺にあんな事を?」
「え?」
「あ、えーと、責めてる訳じゃなくて。でも、どうして、先生は俺にあんな事をしたんですか?」
思うだけで、言う筈ではなかった言葉は水が零れるように落ちる。あの逢坂との行為が終わった後の乱れた感情が嘘のように落ち着いていた。
そんな陣内の問いに柚木はまた軽やかにハンドルを切ると、陣内の家とは違う方向に車を走らせた。
「せ、先生?」
陣内がバイクで走った時には一気に突っ切った森に入り、山頂へと車を走らせた逢坂。
その様子はまるで、何かにとり憑かれたように無心で無言だったが、車のエンジンを切ってしまうといつもの逢坂のように見えた。
「どうして……か」
嘲り、怒り、悲しみ、底のない空しさ。
その口調は一言では表せないほど、色んなものが含まれているようだった。
「陣内君はドイツ料理を出す店に行った時のことを覚えているかな? 俺には恋人が1人いて、別れたのを……」
「こい、びと……」
陣内は思い返すようにその言葉を繰り返す。
逢坂が話し出したのは、今から6年前の話だった。
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