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第9話

「あの時は細かく話す気はなかったから少し違う風に言ったけど、当時、俺は恋人を日本に残したまま、ドイツに留学していた。心理の勉強をする為にね。恋人には今でも申し訳ないと思ってるんだけど、俺はその恋人に甘えていたんだ」  逢坂の口調はいつものように穏やかで、軽やかなものだったが、陣内にはどこかぎこちなく響き、重々しくも感じる。 「甘えていた?」  陣内もそんな逢坂に引きづられるようにぎこちなく返す。 「そう。勉強や生活が思いの外、大変で、連絡もあまりできなかったし、彼の強がりを信じてしまって、彼の本当の気持ちを知ろうともしなかった。日本に帰国した時、彼は既に亡くなっていて、俺は後から彼が何を考えていたかを知ったんだ」 逢坂の恋人が亡くなったのは不幸な交通事故だったらしい。 逢坂が知り得た限り、恋人は自ら死を選んだのではなかったらしいが、恋人の知人を介して知った彼はやはり逢坂が傍にいない事に寂しさを感じていた。  そして、事故に遭ったその日もどこか上の空だったという。 「……彼は俺が殺したようなものなんだ」  少しだけ息を吐き出して、逢坂は元の逢坂のように語り出す。

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