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第12話
逢坂の運転する車が陣内のアパートへ着いたのはもう日没近くになっての事だった。あんなに天気が崩れていたにも関わらず、午後の7時を過ぎると、暗い空には変わりないが、星が光り始めていく。
陣内は冷蔵庫に何もないが、お茶ぐらいはあるだろうと思い、逢坂を部屋へ上げようとした。
「良いのか? 俺は君を手にかけたんだよ……不用意すぎると思うけど」
逢坂は「また襲われるかも知れないよ」とつけ加えると、笑ってみせた。
それはまるで、本心を見せない笑顔だった。
「先生は、もうそんな事はしないと思います」
「ああ……そうだね。そうだと良いね」
車を出そうとする逢坂は視線を下げる。
やはり、陣内の顔を見つめることはできないのだろう。運転席のサイドガラスが閉まってしまうと、いよいよ夜の闇とガラスに隔てられ、見えなくなってしまう。
「先生、また飯に誘ってくれませんか? 俺、先生くらいしか友達というか、そういう存在がいなくて」
以前の陣内から予想もつかぬ言葉に、逢坂は目を見開く。
簡単に人を好きになれない陣内のような人間もいれば、好きな人の為に好きな人を諦めようとする逢坂のような人間もいるという事なのだろう。
「分かった。柚木君が良いと言えば、喜んでつきあうよ」
「え?」
その陣内の声は逢坂の車のエンジン音で消えてしまった。
「どうして?」
逢坂が何故、柚木の事を知っているのか。
いや、確かに先程、陣内は友人と呼べる人に柚木を含めなかったが、それ程までに逢坂は人の感情の機微に鋭いのだろうか。
陣内は逢坂の車が走り去った道の先を見ていた。
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