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第13話
翌日は日曜日だった。
昨日の晴れ間は1日も保たずに、また厚みのある雲が空を覆っていた。降水確率はそれほど高くはないものの、陣内は傘を持って、駅まで行く。
向かうのは柚木の家。
もしかしたら、不在かも知れない。
だが、日曜日だし、大学へ向かうよりは会える確立が高い筈だ。
本当は電話をしたら、確実なのだが……
「ツー、ツー、ツー」
昨日の夜から5回ほどかけているが、機械的な電子音が鳴り響くばかりで、柚木の声を聞こえてくる事はなかった。
柚木の声。言葉で伝えるのは難しい。
いつも明るくて、聞き心地の良い声なのだが、どこか無理をして、いつものような声に聞こえるよう努めているのでは、と不安に思う時もあった。
それは何も演技している訳でもなく、どちらも彼という人間を示しているのかも知れないが、
『柚木の声が聞きたい』
それがどんな声だったとしても、彼の言葉を、彼の姿を求めてしまう。
逸る気持ちを抑え、陣内は柚木の家がある近くの駅で降りた。改札はこれから出かける家族連れやカップルなど沢山の人とすれ違う。
この駅には高校生の頃に何度か来た事があるが、あの頃から5年近くが経過している事から改札からの店の並びもどこかが同じで、どこかが違う。
「笑えるな」
陣内から出たのは低く、小さな声だった。つまり、それ程、長く柚木の気持ちには気づかず、かつ、知らなかったとは言え、柚木に苦しみを与え続けていたのだ。
どうして、柚木に思いを伝えなかったのだろう。
心の、陣内でも分からない深層部ではこんなにも柚木の傍にいる事を望んでいたのに。
陣内は数分、閑静な住宅地を歩くと、柚木の家の前で足を止めた。白やベージュの煉瓦の壁や駐車場、アイビーの蔦をあしらった黒い鉄製の門。『Yuki』と書かれた表札の横にあるインターホンを押す。
何故だか、押したくないという気持ちもあったが、インターホンを押した。
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