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第14話

「はい」  その家の主の声。  それは男性の声だったが、柚木ではなかった。 「あの、俺、いや、僕は陣内と申します」  可能性としては柚木以外の人物が出てくる可能性が十分にあったが、陣内の頭は柚木が出てくると思い込んでいて、真っ白になった。  と言っても、インターホンの向こうの柚木の家族に対して黙っている訳にはいかない。 「すみません、和真君はいらっしゃいますでしょうか?」 「ああ、和真の……ちょっと待って。すぐ開けるから」  陣内が数秒、待つと、家の中から40、50代の男性が出てくる。陣内は実際には会った事はないが、声の感じや目元の感じがよく似ていて、陣内はすぐに彼が誰だか分かった。 「君はもしかして、ジン君かな?」  男性は「和真の父です」と名乗り、聞いてくる。それに、陣内は答えると、柚木の父は黒い鉄製の門を鍵で開けると、家の中へ招いてくれる。 「お邪魔します」 と、陣内は柚木家に入ると、リビングへ通される。 何の木かは陣内には分からないが、シンボルツリーが立つ中庭に、モデルルームのような高い天井。 「柚子の木か? 柚木だけに」 陣内は中庭の見える窓に少し近づくと、珈琲の入ったカップを2つ、持ってきた。 「ご名答。柚木だけに、柚子の木が良いんじゃないかって妻が言ってね」 柚木の父は見た目だけでなく、考え方も若々しい男で、以前、何かの時に研究者として出演していたテレビとはまた違う印象だった。 「ああ、あのテレビ、見てくれたんだ。若い子には退屈だったんじゃない?」 「俺はあんまり頭、良くないので、半分も分かったかどうか怪しんですけど……あ、でも、昔の人も色々、あったんだなって分かりました」 「ははは、まぁ、出来るだけ大学の先生らしくお願いしますって言われたからあんな感じになったけど、昔の人も色々、あったっていうので合ってるよ」 陣内は柚木の父に少し逢坂に近いものを感じると、柚木と逢坂が何となく似ているのも合点がいった。 そして、いきなり世間話を終えて、確信をつくのも…… 「和真に電話をかけたが、電話に出ない。今、いる場所が分からないので、とりあえず家に来た。という事かな?」 「……はい」 一瞬だけ、陣内は動揺するが、柚木の父に話を合わせる。 「和真は今、東京に行ってるよ」 「東京に……」  陣内は息を飲み込むと、柚木の父はポケットから携帯電話を取り出す。携帯電話の画面を見ながら、適当な紙に文字や数字を書き殴っていく。その間、陣内の頭へと浮かぶのは柚木の事しかない。  彼はここへいるのだろうか。  ここに行けば、彼と会えるのだろうか。

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