16 / 22

第16話

それから、陣内は目的の駅で降りると、歩いて20分程のマンションを目指す。  地元だったとしても、セキュリティやその他の設備が充実したところに住んだ方が良いが、それは東京だとしても、同じだ。そして、やはりその分、家賃が高くなってしまう。 それで、家賃を安くするにはどうしても、駅チカという条件は諦めざる得ないのだが、足を骨折して、退院したばかりの陣内には20分は過酷な道のりだと思う。  だが、幸いな事に時間は沢山あるし、とぼとぼとではあるが、駅から歩き続けたら、いつかは辿り着く。 「もうすこし……」  そんな言葉を口にし、陣内は力の入らない足でマンションの階段を登っていく。階段と言っても、10段もない階段だが、足を上げる度にずきずきと痛む。 陣内は後ろに仰向けで倒れていってしまいそうになりながらも、マンションのインターホンまで足を進める。 「柚木……」  太股のポケットから柚木の父が書いてくれた柚木の部屋番号の書かれた紙を取り出す。  あとは、その番号を打ち込んで、柚木が応えるのを待つ。部屋へ、と言われたら、柚木の部屋へ向かい、柚木へ思いを伝える。  もう逃げない。そう誓って……

ともだちにシェアしよう!