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第18話
本当なら陣内は退院したばかりで、3時間も4時間もかけて、こんなところまで来るのは望ましい筈がない。
安静にしているのが一番良い筈というのは柚木も分かっているが、陣内の言葉を黙って待っている。
「俺は、人づきあいが得意な方じゃないし、柚木はその点で言えば、凄い一緒にいるのが苦じゃなかった」
柚木の表情は分からない。
ただ、もう彼が消えてしまうのは耐えらず、陣内はこうしていたかった。
「うん」
柚木はまるでこわい夢を見て、その夢の内容を話している子どもが安心するように優しく頷く。だが、その実、どうやら、柚木は困惑しているようだった。
無理もない。
何故、陣内がここへ来たかは分からないが、もしかすると、陣内は逢坂とつき合う事にしたのではないか。
そして、柚木はやはり陣内にとっては友人としてしか見られないと言われるのではないか。
いや、もしかすると、元の友人としての存在でさえも見てもらえないかも知れない。
「俺、柚木と離れたくない」
柚木の迷いに陣内はぽつりと答えた。
本当はもっと言うべき事はあっただろうし、もっと柚木にも分かるように伝える事もできただろう。
そして、それが分からない柚木ではない筈だった。
「離れたくない。そう、だね。嬉しいよ、でも、何も外国に行く訳じゃないんだし、お盆とかお正月とかいくらでも会えるじゃない。ジンが良ければ、いつまでも僕は友達のつもりなんだから」
それはなんて、残酷な言葉だろう。
と同時に、それはなんて、寂しい現実の言葉だろう。
「友達?」
「うん。僕とジンは高校の同級生。確かに、僕はジンが好きだけど、ジンは僕を好きにならなくて良い。ジンが苦しむくらいなら僕は一生、ジンの友人で構わない。それとも、友人……でももういさせてもらえないかな?」
「そんな……そんな事……ない。俺は柚木が……」
陣内は柚木を振り向かせて、柚木を見る。すると、鼻が酸素を欲しているのを感じた。泣かなかった事が奇跡だったと思う。
何とか、言葉にしようとするのに、言葉が出てこない。会話が上手く続いていかない。
「なんで、なんで……苦しいのに届かない」
陣内はその「届かない」という言葉に全てがある気がしていた。
こんな風に人を引き止めた事がない。こんなにも人が去っていく事に耐えられないと思った事がない。
好きだと言えば良いのか。
好きだと言えば、愛していると言えば、柚木の傍のいられるのか。
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