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 なんとなく気乗りしないままに新宿駅に到着すると、すでに未央が待っていた。慌てて時間を確認するが、約束の時間ぴったりだったので芳賀は安堵した。 「新宿御苑に行くなら歩きますか?温室が見たければ大木戸門の方が近いので丸ノ内線に乗ってもいいんですが」 「いいお天気ですから歩きましょうよ」  未央は白いブラウスにミントグリーンのフレアスカートを履いていたが、足元はヒールの低いサンダルで歩くつもりで服を選んだらしい。  ふたりは連れだって新宿通りを歩き出した。 「御苑の近くは店が色々ありますから、どこかでお昼ご飯を食べましょうか。僕のお勧めはカレーの店なんだけど、混んでるかもしれないな」 「芳賀さん、この辺には詳しいんですか」 「営業でしょっちゅう行ってますよ」 「それじゃあお休みの気分じゃないでしょう。ごめんなさい、わたしのわがままで」 「いいんですよ。女性と歩くのは初めてだから」  高級ホテルのラウンジと違って慣れ親しんだ街並みを歩いているせいか、芳賀は緊張することもなく未央と取り留めの無い話をすることができた。未央のほうもはにかみながら自身のことを色々と話してくれた。ひとりっ子なので家を出るのに両親の反対があって大変だったこと、中学校から大学までテニス部に所属していたこと、最近は友人とパン屋巡りをしていること……ばらばらのパーツが組み合わされて未央の内面が浮かび上がっていく。相手を知るというのはこういうことなのかなと芳賀は思った。恋愛とはすこし違う、結婚を目的とした値踏みでもある。ときめきとか駆け引きではなく、無難な相手かどうかを見極める面接なのだ。  芳賀は30歳手前までそれなりに恋愛をしていたつもりだが、2年前まで付き合っていた恋人と別れてからは仕事に打ち込んでしまってからは誰かに胸を躍らせるようなことはなかった。これから先、恋愛感情を持つことがあるのかと考えると自信が無い。  未央は年齢の割には落ち着いていて、同世代の男には物足りないかもしれないが芳賀にとっては安心できる。話には出てこないが、良いところのお嬢さんなのにそれなりの苦労をしているのかもしれない。明日にでも日比野に断りを入れるつもりでいたのに、とりあえず何度か会っても良いかなという気になっていた。彼女と結婚したら刺激はないけれど安心できる家庭が築けるのかもしれない。それは恋愛に附随する感情の浮き沈みとは根本的に違うのだろう。 「それで、祐弼さんが……」  何の気無しに未央が口にした名前に、芳賀ははっと反応した。 「日比野?」 「ええ、実家の犬が散歩のときに大きなダニに喰われてしまって……あれ、無理矢理取ろうとしちゃいけないんですよね。それで、祐弼さんに紹介してもらった動物病院に行ったら、そこの先生がとっても面白いひとで……」  また日比野か。  未央の話のなかの日比野は、第一営業課長の彼やベッドの上で芳賀の首に腕を回す彼とは違う妙な生活感があった。もう10年以上の付き合いなのに、まだ見たことのない彼がいる。  芳賀は未央に嫉妬のような感情を抱いた。

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