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 未央とは半月に一度ほど会うようになった。  2、3時間ほど食事をしながら会話をして、その辺を歩き回って別れる。それがもう半年以上続いている。日比野には泊まりの旅行に行けとか家に連れ込めとか乱暴なことを言われているが、お前は香江子さんにそんなことしたのかと訊いたら黙ってしまった。上司と部下という体面を保っていたいのに、未央のことに限ってはやたらと絡んでくるので、面倒臭いことこのうえない。  日比野にけしかけられても、未央との距離を縮めるのにはなんとなく苦心していて、ようやく手を繋げるようになっただけである。しかし、彼女の一挙一動に生理的な嫌悪感をおぼえる要素はひとつも無く、会話も(たまに日比野の名前が出てきて動揺するが)それなりに弾んでいる。  それでもやはり支社長のひとり娘であり(理由はよくわからないが)日比野が世話を焼いているといったことを考えると、深い仲になった後で破綻させるわけにはいかなくなる。とはいえこのままずるずると食事と会話だけしていても仕方がない。若いとはいえ未央は26歳で、もし結婚願望があるのなら、こんな関係を続けていくことすら失礼だろう。  だからという訳ではないが、芳賀は会う日時を今までのような休日の昼間ではなく、平日の夜にして提案した。すこし時間が空いて、未央から了承する旨のメッセージが届いた。  プロポーズするまではいかないが、前向きに関係を続けていきたいと伝えるつもりで、芳賀はクリーニングから帰ってきたばかりのスーツに新しいワイシャツでその日は出社した。  外で昼食を済ませて会社に戻ろうと通りを歩いていると、後ろから声を掛けられた。 「課長、なんですか」  日比野はわきまえていて仕事の話は必ず社内でする。つまり外で呼び止められると碌なことがない。  日比野は軽い口調で訊ねてきた。 「夜、空いてるか?」 「……」  未央と会うようになってからも日比野は相変わらず誘ってくる。なにかと理由をつけて断っているが、未央との交際を仲介している癖に彼がなにを考えているのか芳賀にはさっぱりわからない。 「今日は高浜さんと会うんです」  会社の人間が近くにいるわけではないが、芳賀はよそよそしく敬語で答えた。 「ああ、そうか」  日比野は芳賀を頭のてっぺんから足先まで眺めた。長い付き合いなのに、じっくり見られると心拍数が上がってしまうから不思議だ。 「それならネクタイの色はもっと明るい方がいいだろう。俺のを貸してやるよ」 「はあ」  こいつの考えていることはまったくわからないと、芳賀はなかば呆れていた。

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