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「しばらくして、俺は未央に会うことにした。別に恨んでいるわけじゃないし、可哀想とも思っていなかった。ただ、彼女に会うことで親父やお袋を出し抜いた気分になれると考えたんた……子供っぽい考えだろ?あのときはどうかしてた」  日比野はちょっと息をついた。 「喉渇いたな……コーヒー買ってきてくれよ。廊下の奥に自販機あるだろ」  日比野はネックストラップに下げたカード入れの中から、電子マネーのカードを取り出し、芳賀に渡した。 「ボトル缶のブラック、アイスだからな。あと、奢ってやるからお前も好きなもの買ってこい」  言われるがままに芳賀は鉄製のドアを開けてエレベーターホールに戻った。これまであまり認識していなかったが、確かに屋内階段の踊り場の脇に自動販売機がモーター音を立てている。日比野の指示したボトル缶のブラックコーヒーは1種類しかなかった。なるほど課長席の机によく乗っている銘柄だ。こんな季節だが、ホットとアイスがどちらも置かれていた。芳賀はカードを使ってまずコーヒーを買い、自分の分は散々迷った挙句、ミネラルウォーターにした。  急いで屋上に戻ると、日比野は2本目の煙草を口に、柵に寄りかかって空を仰いでいた。うろこ雲が広がってゆっくり移動している。  コーヒーを手渡すと、日比野はふた口ほど飲んで、 「お前に説教されるつもりが、俺ばかりベラベラ喋ってるな」 と、笑った。 「別にいいんだ、俺は未央さんのことが知りたかっただけだし」  日比野は芳賀の顔をじっと見た。 「知りたいと思うからには、彼女とのことを前向きに考えているととらえていいんだな」  正面切って問われると、自分でもよくわからなくなってしまう。だが、日比野家の秘事を知ったからにはもう後戻りできないのではないだろうか。芳賀は頷いた。言葉にすることはできなかった。  それでも日比野は満足したようで、話を続けた。 「俺は親父に内緒で高浜支社長に連絡を取った。高浜はかなり驚いていたな。まさか俺が知っているなんて思ってもみなかったんだろう。かなり無理を言って家に押し掛けて未央に会った……不思議な感覚だったね。半分しか血が繋がってないし、所詮他人だろうと思っていたのに、本当に可愛かったんだ。ああ、変な意味じゃないぞ。俺はこどもの頃弟か妹が欲しかったんだ。その気持ちを満たしてくれる存在に急に出会ったんだ」 「未央さんはどうだったんだ」  日比野は優しい顔になった。 「驚いていた……というより怯えていたかもな。親父と多少は交流があったようだが、兄が訪ねてくるなんて思ってなかったんだろう。それでも何度か会ううちに心を開いてくれて、兄さんと読んでくれるまでになった。まあ、俺がそう呼ぶようにしつこく言ったんだけどな」  日比野は喉を鳴らしてコーヒーを飲んだ。芳賀も渇きをおぼえペットボトルの蓋を開けて水を流し込んだ。

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