5 / 101
第5話
樹は将来的に唯パパと同じ様な分野に進みたいらしい。
小さい頃から樹は自分の父親とそりが合わなかった。
樹いわく、父親、貴一さんは非常に恐ろしい一面があるらしい。
俺も貴一さんには何度も会ったことがあるが、いつも笑みを絶やさず穏やかな人だという印象のため、恐ろしいというイメージは全くない。
ただ自分の番である樹の母親、瑞樹さんを溺愛していて、唯パパが転びそうになった瑞樹さんの腰をとっさに支えたら、貴一さんがすごい形相で自分の腕の中に奪い返したことがあった。
「器の小さい野郎だ」なんて唯パパは呟いて、父さんに頭を殴られてたけど、貴一さんのことをちょっと怖いと思ったのはその時だけだった。
樹は自分の父親よりもずっとあけっ広げな唯パパに小さな頃から懐いていて、唯パパもそんな樹を可愛がっていた。
「いただきます」
俺の目の前に父さんが座り、その横に唯パパが座る。俺は父さんの前、樹はその隣が、いつもの定位置だった。
樹は夕飯をうちで食べる機会が多い。
三人で食卓を囲むより、四人の方が多いくらいだった。
俺はグラタンを一口食べると、ついため息をついてしまった。
「どうした、真?美味しくなかったか?」
父さんの言葉に俺は首を振った。
「ごめん。ちゃんと美味しいよ。ただ明日、大学の入試結果でるから色々考えちゃって」
樹と違って俺の自己採点の点数は、合格ラインのボーダー上にあった。
「考えたところで結果は変わらないんだから、くよくよするのはやめろ。もう他の大学からは合格通知をもらっているんだろ?」
「そうだけど……」
父さんの言葉に俯く俺を見て、唯パパがくすりと笑った。
「ほらそんな顔しない。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」
「そうそう。もしお前が落ちたら、俺も真と同じ大学いってやるし」
俺はバクバクとグラタンを口に運んでいる樹を睨みつけた。
「いってやるってなんだよ。お前はどうせ受かるんだろうから、俺のことなんて気にせずに、ちゃんと第一志望の大学に通えばいいだろっ」
「別にそこまであの大学に思い入れないし。真がいない大学通ってもつまらないし」
「真の為に進学先を変えるだなんて、後悔するぞ」
父さんが苦笑する。
ともだちにシェアしよう!