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第8話
「蔵元も染崎にもマジでそういう感情持ってないって。ただ目立つ二人だろ?ついつい目で追っちゃうっていうか」
「だからこの前、校庭にいる蔵元のことぼうっと眺めてたのか」
俺はすぐには樹の言ったことに思い当たらなかった。
「いつの話だよ?」
「先月。校庭で友達と雪遊びしてるあいつのこと見てたじゃん」
「そうだっけ?」
言われて記憶を探ると確かにそんなことがあった。
あの日、校庭からはしゃいだ声が聞こえてきて窓の外を見たら、蔵元が雪だるまを友達と作っているところだった。
太陽の光を反射した蔵元の髪がキラキラと光って綺麗で、確かに俺は目を奪われていたことを思い出した。
「あれは、髪が光ってて綺麗だなって。ってかお前もよくそんなの覚えてるよな。一か月も前の話だろ」
「俺も髪染めようかな。金髪に」
呆れたような俺の言葉を無視し、樹がボソッと呟く。
「なんで?お前の黒髪、綺麗なのに」
俺は樹の前髪に触れた。
髪と一緒の真っ黒い瞳で樹が射貫くようにこちらを見つめる。
樹は嫌がるかもしれないが、顔立ちはやはり貴一さんによく似ている。
樹は見た目も頭も悪くないが本命の彼女はいらないらしく、「性欲処理だけだったら付き合うけど、絶対に好きにはなれないから」と学校で宣言している。
それでも遊んでと寄って来る女が絶えないのは正直すごいと思うし、まだ彼女という存在がいたことのない俺からすると、羨ましい話だった。
「女のくだらないお喋りに付き合うより、真とゲームしていた方が100万倍楽しい」とか平気で言ってしまえるこいつは良くも悪くもまだ子供なんだと俺は思っていた。
眠くなってきた俺の瞼が自然と落ちていく。
「真のほうが綺麗だ。俺なんかよりずっと」
眠りに落ちる前、樹のそんな声を聴いた気がした。
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