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第9話

 部屋の机の上でノートパソコンの電源を入れ、俺は固まっていた。  ふいの着信音に体がびくりと震える。  電話にでると、聞きなれた声だった。 「真、合否どうだった?」 「樹は?」  俺はごくりと唾を飲んだ。 「受かってたよ。真は?」  俺はマウスを握り、合否メールを開けようとした。手が震える。 「まだ見てない。だって、怖くて」  樹のため息が聞こえ、通話が切れた。  直ぐにドスドスと階段を上る足音が聞こえる。 「ったくなにしてんだよ。さっさと確認しろ」  扉が開き、仁王立ちした樹が言う。 「ちょっと待てって。俺はお前と違って自信ないんだよ。もし落ちてたら」 「落ちてたら一緒に受かった方の大学通ってやるって言っただろ?」 「そういう問題じゃなくてっ」  樹は俺からマウスを奪うと、問答無用でメールを開封してしまう。  俺は画面から顔を背けた。 「あ」 「どうだった?やっぱ、落ちてた?」  俯いたまま、樹のセーターを握り尋ねる。 「どうなんだよ」 「受かってた」  俺はパソコンの画面を両手で掴んだ。  そこには確かに「合格」の二文字が見える。 「良かったな。真」  樹が俺の頭をくしゃりと撫でる。  感極まった俺は樹に抱きつき押し倒した。 「俺、絶対、絶対ダメだと思ってた。リスニングもできなかったし、絶対もう落ちたって」 「ちゃんと受かってたじゃん」 「うん。本当に良かった。すげえ嬉しい」  俺はハタと顔を上げた。 「これ夢じゃないよな?」  樹がくすりと笑うと俺の頬をむにりと摘まんだ。 「夢じゃない」 「良かったー」  俺はまた樹に抱きついた。  樹は笑いながら俺の背中をポンポンと叩くと、力強く抱きしめ返した。  両親に報告するとこちらがびっくりするくらい喜んでくれた。 「明日、大きいケーキ、焼くからな」  父さんの言葉に微笑んで頷く。 「本当にめでたいなあ。ほら、お前たち合格祝いに一杯だけな」  唯パパが高級な赤ワインのコルクを抜き、グラスに注ぐと俺達に勧めた。  父さんが唯パパを睨みつける。 「一杯だけだから。特別な日だし」  唯パパがタジタジになりながら言う。

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