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第18話

 殴られたように樹の口元は切れ、頬に痣を作っていた。  制服のブレザーも片腕がちぎれかけている。 「ああ、転んだんだよ」 「嘘つけ。どう考えてもそれ喧嘩だろっ。まさか相手は蔵元かよ」  樹が気まずげに視線を逸らせる。 「まあな」 「何やってんだよ」  俺が怒鳴りつけようとすると、いきなり唯パパが立ちあがって樹に思いきりハグをした。 「樹ありがとう。お前がやらなきゃ、俺がやろうと思っていたところだった」 「唯パパ」 「唯人っ」  俺と父さんは二人で咎めるように声を上げた。 「だってよ。可愛い息子が理不尽に傷つけられたんだぜ。親としては一発見舞ってやりたいと思うのは当然だろ」 「理不尽って。そもそも俺がヒートになって蔵元を巻き込んだのが悪かったんだし」 「真」  父さんが俺の腕を掴んだ。 「いいか。確かにお前がヒートになって、蔵元君が本能に負けてお前を襲ったってところまでは、どちらが悪いとはいえない。それでも一方的にお前が悪いなんてことはないんだ。それに蔵元君はそんな状態のお前を置き去りにして、隠れているように指示したんだろ?十分すぎるくらい俺には悪質に感じる。その時の真の心細さを考えると」  話している最中に言葉を詰まらせ、潤んできた自らの眦を父さんが拭う。 「だからって同級生を殴る樹の行為を俺は手放しで称賛したりできない。樹、瑞樹さんも貴一さんも相当ショック受けたんじゃない?あとで俺と唯人で謝りに行くから」 「うちまで謝罪に来るなんてやめてよ。停学になったけど、もう卒業までの出席日数は足りてるし、学校なんて行かなくても困らないんだ。それに両親だって、母さんは絶句してたけど、父さんは大笑いしてむしろ誇らしそうだったんだから」 「瑞樹さんの困惑した表情が目に浮かぶ」  父さんが額に手をやると、目を閉じた。 「おい、唯人。今から樹の家まで行くぞ」 「分かった」  椅子に掛けてあったコートを父さんが羽織る。 「お前たちはここで待ってろ。帰ってきたらチキンを温めて、ケーキを切るから」 「父さん。俺も行くよ」  樹の暴力の原因はどう考えても俺だ。停学について俺からもちゃんと謝りたかった。

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