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第19話

「真。とりあえず今日は大人だけでいい」  父さんが首を振る。 「そんな心配そうな顔するな。ちゃんと全部うまくいくから」  唯パパが俺の髪をくしゃりと掻きまわす。  両親が出て行くと、俺と樹だけがリビングに残された。 「謝罪なんていいのに」  樹はぶっきらぼうにそう言うと、椅子に腰かけ、両手を頭の上で組んだ。 「なんで、そんなことしたんだよ。蔵元のこと殴るなんて」 「あいつが殴られると嫌なのかよ?あいつが傷つくとお前も辛いとか?」  静かに樹が問う。 「違くて。俺っ、お前に迷惑ばっかりかけてる」  言った途端、俺の瞳から涙が零れ落ちた。 「真」  立ち上ったと思ったら、あっという間に樹の腕に抱きしめられていた。 「迷惑なんてかけられてない。前から蔵元のことはかっこつけてて気に食わなかったんだ。いつか殴ってやろうと思ってて、たまたま今日それを実行しただけだ。それに俺の方こそごめんな」 「なんで樹が謝るんだよ」  顔を上げると、痛ましい表情をした樹と目が合った。 「最近お前からしょっちゅう甘い匂いがしているのには気付いてた。でもお前は平然としていたし、まさかこんな突然ヒートがくるなんて」  樹が悔しそうに下唇を噛む。 「ごめんな。俺がもっとお前に注意してれば、もっと俺が」 「謝るなよ。それに俺はお前がどんなに言ってくれたとしたって自分を変えられなかったと思うよ。オメガとしての自覚全くなかったからさ」  俺は無理矢理につくった笑みを浮かべた。 「まあ、父さんが口うるさかったおかげで、番持ちになるのだけは避けられたけどな」  自分の首に巻かれた黒い首輪にそっと触れた。  蔵元に襲われた時、あいつが首輪に何度も噛みついたせいで以前の物はボロボロになってしまい、新しいものに買い替えた。  それでも何とかうなじだけは守られたことに俺はほっとしていた。 「そうか。お前のここはまだまっさらなままなんだな」  ぽつりと樹が言い、俺の首輪近くの薄い皮膚に触れる。  ぞくりと肌が粟立った。 「樹……」  ばたんと扉が開く音がして、俺達は慌てて体を離した。 「お待たせ。今日はみんなで合格パーティーだ」  そう言う唯パパの後ろから、瑞樹さんと貴一さんが顔を覗かせる。 「和希さんのケーキ楽しみ」  喜美ちゃんの声も聞こえる。 「ケーキ、ちゃんと俺の分残るかな」  ぼそりと呟いた樹の言葉に俺は思わず笑ってしまった。

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