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第20話

 リビングの大理石でできた大きな机を囲んでみんなで座る。 「初めてのヒート中なんだよね?真、大丈夫?」  右隣に座った喜美ちゃんが俺に声を潜めて尋ねる。 「ん。俺、抑制剤が効きやすい体質らしくて。きちんと服用しとけば、今んとこいつもと変わらずに生活できてるかな。副作用とかもないし」 「ふうん。いいなあ。私最初に抑制剤飲んだ時、合わなくて一日中げーげー吐いちゃって大変だったんだ。ちょっと羨ましい」 「食事中に気分悪くなるような話すんなよ」  俺を挟んで左隣に座る樹が冷ややかに言う。 「はあ?人の話に聞き耳たてているほうが、気分悪いんですけど」  中学に上がった頃から、樹と喜美ちゃんの仲は急激に悪くなった。  そういう事情もあって樹はますますうちに入り浸るようになったのだ。 「ほら、喧嘩しない。ケーキはチョコとレアチーズと生クリームがあるけど、どれがいい?」  父さんが苦笑しながら問う。  父さんは帰って来てからあっという間に、追加のケーキを焼きあげてしまった。 「全部っ」  樹と喜美ちゃんがハモる。 「真似しないでよ」 「真似すんなよ」  そんなところまで似ていて、二人以外の全員が吹きだした。  樹がトイレに立った隙に、俺は貴一さんと瑞樹さんに話かけた。  二人に頼んで、一緒に庭に出てもらう。  夜空には数少ない星が瞬き、室内からは父さんが心配そうな表情でこちらを見ている。 「樹の停学のこと、すみませんでした」  俺は深々と頭を下げた。ちゃんと謝罪したいと二人が家に来た時からずっと思っていたのだ。 「真」  瑞樹さんに名前を呼ばれたと思った瞬間、抱きしめられていた。 「怖かっただろう?樹のことは気にしなくていいんだよ。あの子が勝手にやったことなんだから」 「瑞樹さん」  俺は瑞樹さんの優しい声音のせいで、泣きそうになった。

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