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第22話

 俺は結局、樹と一緒に学校を一か月休むことにした。  樹は停学中にもかかわらず、毎日のように俺を映画館やボーリングへと連れ出した。  遊びから戻ってきても、樹は自分の家には帰らず、ゲームを朝までやったり、特に内容のない会話をしながら日付が変わるまで俺と二人ではしゃいだりした。  そんな楽しい日々を過ごすうちに、俺はすっかり忘れていた。  自分の身に起こったことを。  「妊娠されていますね」  目の前の医者はカルテを机に置くと俺と目を合わせた。 「で、どうしますか?」 「俺……、その何も、何もちゃんと考えていなくて」 「前回の診察時、お話ししておいたはずですよ。妊娠の可能性についても」  医者がすうと目を細める。 「そうなんですけど。でも俺」 「ご自分は妊娠なんてしていないと思い込んでいた」  医者が小さくため息をつく。 「体調もいつも通りだったし、すみません」  隣に座っていた父さんが俺と医者の会話に割って入る。 「違うんです。俺が息子に言ったんです。大丈夫だと。何も心配するなと」  そう。  父さんは繰り返し俺にそう言った。  だが、自分の身に起こったことから逃げるように樹と毎日遊びまわっていたのは俺自身だ。 「真」  父さんが俺の手を握る。 「難しい問題だ。直ぐには決められないよな?うちに帰ってゆっくり話そう」  俺は小さく頷いた。 「堕胎するなら早い方がいい。その方が母体に危険も少ないですからね」  そう言って医者は堕胎の同意書などを父さんに渡した。それは俺が産む決断をするなど鼻から考えてもいないような態度だった。  家に戻ると疲れ切った俺は、少し休ませて欲しいと自室にひっこんだ。  誰とも話したくなくて、俺は部屋に鍵をかけた。  着替えもしないでベットに横たわると、自分の下腹部にそっと触れた。  ここに、命が宿っている。  平らな腹は何も動かず、生命の存在を感じさせないように冷たい。 「信じられねえよ」  俺は呟くと目を閉じ、奥歯を噛みしめた。

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