26 / 101

第26話

「大切な話があるから、今夜、こっちに来てもいいかって樹から電話があったんだけど」  翌日の朝食の席でそう言われ、俺は紅茶を吹きだしそうになった。 「貴一さんと瑞樹も来るみたいなんだけど。どんな話か聞いてる?」  俺は内心、冷や汗をかきながら俯いた。 「俺はなんとなく予想がつくけどな」  唯パパがそう言い、焼きたてのクロックムッシュを口に放りこむ。 「じゃあ、行ってくる」  唯パパは俺の頭を撫で、父さんにキスすると、リビングから出て行った。  父さんが机の上の食器を片付け始める。 「父さん。俺やるよ。どうせ今日も予定ないし」  俺は高校を卒業できる出席日数をほとんど満たしているため、学校には当分行くつもりはなかった。 「いいから。真は座ってろ。俺も仕事は午後からにしたから」  父さんは最近俺を一人にするのが心配らしく、仕事も休みがちだった。 「俺は大丈夫だから、仕事行きなよ」 「ああ、ちゃんと明日は行くよ。今日は樹の家族も来るっていうから、ケーキでも焼こうかな。樹の好きなガトーショコラにするか 」  そう言いながら父さんはキッチンに入って行く。 「それにしても大切な話って何だろうな?真は聞いているか?」 「いや、俺は」 「そうか。喜美ちゃんは来ないのかな?夕飯はいらないって言われたけど、手土産用にクッキーも焼いておこうかな」  父さんはそう言いながら冷蔵庫の中を覗きこんでいる。  俺は目の前にある紅茶のカップを両手で包んだ。  琥珀色の液体を見つめる。  樹はどういうつもりなんだろう。  大事な話って本当に俺と結婚したいとでも言うつもりかよ。  じっとしていられずに、立ち上がった。 「ご馳走様」  食器を流しに運び手早く洗うと、俺は自室に戻って、机の上のスマホを手に取った。

ともだちにシェアしよう!