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第29話
「お前どういうつもりだよ」
「どういうって、さっき下で言った通りだけど?お前と結婚して一緒に子育てしたいって」
「同情とかいらねえんだよ」
俺は叫ぶと自分の髪をくしゃりとかきあげた。
「同情?」
「そうだろ?お前が今まで付き合った子は皆小柄の可愛らしい女の子で俺と全然違って」
「嫉妬してくれてんの?」
「そういう話じゃないって分かるだろ」
俺はふいに疲れを感じ、ベッドに座りこんだ。
「真、寒い?エアコンの温度上げようか」
「平気」
「本当?体調悪いならちゃんと言って。大切な体なんだから」
樹って分かりにくいけど、本当はすごく優しい奴なんだよな。
だからきっと俺のことも放っておけなくて。
俺は樹を見上げるとふわりと微笑んだ。
「大丈夫だから、樹も座れよ」
そう言って自分の隣を叩くと樹が素直にそこに座る。
俺は樹の肩にそっと頭を乗せた。
「お前、馬鹿みたいに優しいからさ。俺がこんなになっちまって、なんとかしようと思って一生懸命考えてくれたんだよな?ありがとう。だけど、俺は一人で大丈夫だから」
昨夜樹が言ったことで一つだけ当たっていたことがあった。
俺は多分、堕胎することはできない。
もしそれをしてしまったら街の中で赤ん坊を見る度に俺は罪悪感にかられるだろう。
授かった経緯は普通ではないけれど、俺のもとにやってきた命だ。
産もう。
そして大切に育てよう。
俺はそう覚悟した。
「馬鹿は真だよ」
低い樹の声が聞こえたと思ったら、ベッドに押し倒されていた。
「同情なんかじゃない。俺はずっと真が好きだった」
「えっ、だってお前色んな女の子と付き合ってたろ?」
樹が気まずそうな表情になる。
「付き合ってなんかない。あれは間違って真を無理やり抱かないために、よそで発散してたんだ。ちゃんと相手にもそのことは伝えてあった」
樹は俺の隣にごろりと横になった。
「ああ、こんなこと一生言うつもりなかったのに、かっこ悪ぃ」
樹は俺と目が合うと小さく笑いかけた。
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