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第30話
「真は一人ぼっちの俺を誘って、いつも友達や両親の輪の中に加えてくれた。お前がいたから俺は寂しさを感じなくてすんだんだ」
「樹」
それはひな鳥が親にくっついて回るのと大差ないのではないか。
そんな考えが頭に浮かんだ。
「真のことが好きで好きでどうしようもなくて。それに中学になるとお前から甘い香りがし始めたから、余計色々我慢するのが辛くなって」
「嘘だ。誰もそんなこと言わなかったし、俺も感じなかった」
「嘘じゃないよ。本当にお前の体からはレモンみたいなオレンジみたいな柑橘系の甘くて、もっと嗅ぎたくなるような香りが立ち昇るんだ。中学の時なんて、俺はその香りにあてられて、寝ているお前の首を噛みそうになったことさえあった」
「えっ」
「実際噛んだのはお前の着けていた首輪だったし、唯人さんに見つかったからそれ以上何もなかったけどね。あの時、和希さんが止めてなきゃ俺、唯人さんに半殺しにされてたと思う」
「そんなこと俺、知らない」
「真には言わないでくれって俺が頭下げたんだ。軽蔑されるのが怖くて。蔵元のこと本当は俺、責められる立場じゃないんだよ。こんな話聞いて、俺のこと嫌いになったろ?」
蔵元との一件から、俺は自分より背の高いアルファの男性が苦手になってしまった。唯パパにさえ背後に立たれると、ゾッとしてしまうこともあった。
でも何故かは分からないが、樹にはそんな気持ちを抱いた事は一度もなかった。
「嫌いになったりしないよ」
そう告げると、樹がほっとしたように笑う。
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